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シェイクスピア時代の動物たちを想像する

  • 英語文化コミュニケーション学科

高橋実紗子 専任講師

英文学・英博物学、おとぎ話、アニマル・スタディーズ

研究のテーマ

初期近代博物誌および周辺テクストにおける動物・自然

研究テーマの内容、研究活動

主に16〜17世紀の英語文献において、動物を含む自然がどのように描かれているかを研究しています。劇作家シェイクスピアが生きた時代、人びとにとって動物たちは何者だったのでしょう。

研究にあたり、文学作品だけではなく、博物誌と分類される文献を手がかりとしています。これまでの調査では、たとえば、シェイクスピアと同時代に活躍した劇作家ジョン・ウェブスターの作品におけるオオカミの比喩の意味や、当時の文献群におけるクジラやアザラシなどの海の動物の曖昧な分類・描写に着目してきました。

アニマル・スタディーズの根本にあるのは、人間を中心に据える研究のあり方を問いなおし、人間以外の存在にも目を向けようという姿勢です。文学作品をはじめとする物語には、じつはいたるところに動物が登場します。動物は、実際に登場することもあれば、人物をたとえる比喩として言及されることも、風景の一部としてさりげなく言及されることもあるでしょう。人間だけの空間に思えて、じつは世界は人間以外の多くの存在から構成されているのだという気づきは、わたしたちが生きる自然環境が人間だけのものではないという意識につうじています。

エドワード・トプセルによる『四つ足獣の歴史』(1607年)の標題紙。 “HISTORIE”など、当時の綴りが確認できる。

研究テーマの意義・面白さ

はじまりは幼少期に抱いた、「オオカミは愛情深い動物なのに、なぜ悪者として描かれるのだろう」という疑問でした。その答えを求めておとぎ話「赤ずきん」について研究していたとき、資料収集をしていて17世紀の博物誌に行き当たりました。当時の博物誌には、動物を擬人化した表現が頻繁に使用され、また、動物にまつわる人間の話までもが記されています。当初はこのことを不思議に思っていましたが、こうした記述にこそ、同時代の人びとの自然観が反映されていると気づき、もっとじっくり読んでみたいと思うようになりました。

シェイクスピア時代の英語の綴りや印刷の慣例に触れながら資料を読み進めるときは、タイムトラベルしているような気分です。まったく異なる世界に思えた400年以上前のイングランドが、目の前に浮かびあがります。一見すると摩訶不思議な動物の版画も、当時の人びとの動物をめぐる想像を探る一助となり、現代の作品にも登場する空想上の動物の起源について考える楽しさがあります。

動物について考えることは、人間と動物の関係を問いつづけることでもあります。そしてそれは、わたしたち人間が人間をどう捉えるか、という問題にもつながります。

高校生や学生へのメッセージ
「『フランケンシュタイン』はたぶん怖い話」「幽霊が登場する物語は読みたくない」「おとぎ話に怖い描写があるなんて」と苦手を感じたものを避けてばかりだった私に、表面に見えているものの向こうを見ようとする姿勢を教えてくれたのが文学の授業でした。物語は、〈わたし〉ではない〈だれか〉の心を想像する機会を与えてくれます。それは、人と関わりながら生きていくうえで、大切な力になるはずです。大学では、ぜひさまざまな物語に出会い、その物語の背景にあるさらなる物語を想像してみてください。
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