研究テーマの内容、研究活動
他者から批判されたとき生起する屈辱感、羞恥感、罪悪感を研究対象としており、特に屈辱感に関心を持っています。同じ場面でも、どの感情が生じるかによって、どのような行動を取るかが異なります。例えば、罪悪感が生じると迷惑を掛けた相手に対する謝罪が促されますが、屈辱感が生じると謝罪のような行動を取りにくくなります。これまで、屈辱感が対人関係を崩壊させる負の感情であることを研究してきました。しかし、巷では、屈辱感をバネにして自己を向上させる行動をとったというエピソードを耳にすることがしばしばあります。このような視点の研究は少ないので、屈辱感の正負の2側面を明らかにしたいと考えています。
最近は、日本人の新型コロナウイルス感染症予防行動について研究をしました。新型コロナウイルス感染症の流行によって、日本では2020年4月に第1回目の緊急事態宣言が発令されましたが、既に都市封鎖をしていた欧米と異なり、特に罰則はありませんでした。そのため、海外メディアからは実効性が疑問視されていました。そのような中、Record Chinaというメディアが、日本では世間に迷惑をかける行動をとる人は他者から圧力を受けるので、日本人は強制力と罰則がなくとも、新型コロナウイルス感染症予防行動をとるという記事を掲載しました。そこで、私は「日本人は他者からの批判を避けるために、新型コロナウイルス感染症予防行動を取るのか」という疑問の下、研究を実施しました。
【引用】
Record China(2020).日本の緊急事態宣言,国民の「恥の文化」機能に期待─中国紙─ Record China 4月7日 Retrieved from https://www.recordchina.co.jp/b796276-s0-c10-d0054.html(2020年4月9日)
研究テーマの意義・面白さ、その研究を始められたきっかけや背景
人は誰しも大なり小なりミスをします。そして、そのミスに対して、他者から注意もしくは叱られたという経験があるでしょう。どのように注意されたのか、誰から叱られたのかによって、ひどく傷つくこともあれば、その経験を前向きに捉えることもあります。例えば、学校である学生がミスをしてしまい、教師から大勢の前で人格を否定するような叱責を受けたとしましょう。さて、この学生はその経験を前向きに捉えることができるでしょうか。おそらくひどく傷ついて、前向きに捉えることはできないでしょうし、その教師を嫌いになる可能性が高いでしょう。一般的に、このような叱り方はハラスメントに該当します。私の研究は、重要な社会問題であるハラスメントに絡んでいると考えています。学校や会社等において、他者を注意・叱責せざるを得ないシーンは複数ありますので、ハラスメントを防止するためには、相手を傷つけない、屈辱感を感じさせない注意・叱り方を考える必要があります。また、注意・叱責を受けた側も、どのように受け止めれば屈辱感を感じないのか、また、屈辱感を感じたとしても、それをどうすれば自分の利になるような行動に結びつけられるのかを考える必要があるでしょう。