研究テーマの内容、研究活動
大学院生の頃から、ずっと室町時代の天皇と将軍の関係性を研究してきました。幕府が関東にあった鎌倉時代や江戸時代と違って、幕府が京都に所在した室町時代は、天皇と将軍が“ご近所さん”でした。従来は「将軍(=武士)は、天皇(=朝廷や貴族)を圧倒し、旧来の権力や権限を奪っていった」と解釈されてきた室町時代の天皇と将軍ですが、よくよく観察すると、両者は相互補完関係にあったことがわかりました。なぜ、両者は手と手を取りあったかのか、そこに日本社会の特質を探る重要な要素が隠れているのではないかと、研究を進めてきました。
最近は、それに加えて、応仁の乱で弱体化した時期における室町幕府将軍の生き様についても関心を持っています。特に、若くして父母よりも早世した足利義尚は興味深く、彼の人生を追うことで、日本社会における世代交代の難しさや、全盛期の実力を失ったにもかかわらず隠然とした権威を有する存在が社会に必要とされる理由などが垣間見れるのではないかと、研究を進めています。
研究テーマの意義・面白さ
歴史学は「過去に何があったか」「過去のに社会はどのような構造によって成り立っていたか」という「である(であった)」を追求する学問です。他の分野の学問と違って「理想の社会とはこういうものである」とか「こうすればもっと良くなる」といった「べき」を追求する学問ではありません。「べき」というのは願望であり、主観だからです。あくまで、どこまでも「である(であった)」という客観を追求する(追求できる)ところが、歴史学最大の面白みだと思います。
とはいえ、日本中世史の研究を進めていると、生きていく上でのヒントに出会うことはよくあります。例えば室町時代の政治史を検討していると、歴代足利将軍の個性というようなものも見えてきます。鎌倉時代や江戸時代もそうですが、あまり一般歴史ファンの興味を惹かない地味な将軍ほど(足利家でいうと二代将軍の義詮や四代将軍の義持など)、無駄な諍いを引き起こさない、社会の流れに素直に沿った政策を進めていたりします。このあたりのことなどは、社会の真理を捉えていて、なかなか興味深いのではないでしょうか。