研究テーマの内容、研究活動
まず、「表象文化論」あるいは「カルチュラル・スタディーズ」という専門分野を聞いたことがない人が多いと思います。おそらく、難しそう、自分と関係がないなどの印象を持つかもしれません。実は、真逆です。この二つの分野は横断的であり、学際的であり、一つの目標として文化を「自分たちに向けて自分たち自身で語る物語」(クリフォード・ギアツ)として理解することです。具体的には、映画、ドラマ、漫画、音楽などの毎日消費している娯楽が我々の価値観や世界観へ影響を及ぼすプロセスを研究することです。そして、現代社会に溢れている映像媒体で構築されている人間関係、ジェンダー、人種などに対する固定概念を打破するツールを紹介しています。異文化理解、コミュニケーション、メディア(テレビ、映画、出版社)と関連する仕事あるいは大学院に興味がある人にとって、特に将来活かせる専門分野だと思います。
現在の研究は、2010年以降の漫画・アニメが海外で注目されている理由を追求し、ネット時代に日本の大衆文化がソフト・パワーとして使用されている有意義な方法を考えています。また、日本の漫画でしか表現できない政治と社会問題を研究しています。近年、私は『帝一の國』『進撃の巨人』『文豪ストレイドッグス』『ゴールデンカムイ』に強い関心を持っています。そして、フランスやアメリカ映画における異文化コミュニケーション問題の描写を分析しています。ゼミ生は、主に漫画と海外映画で表象される文化の諸問題について卒業論文を書いています。
研究テーマの意義・面白さ
私はカナダ生まれ、カナダ育ちですが、母語は英語ではなくフランス語です。フランス語圏の話者がマジョリティであるケベック州で20代前半まで生活しました。教育は全てフランス語で受けました。しかし、住んでいる地域ではフランス語話者がマジョリティであったものの、自分の国では少数派でした。さらに、隣国のアメリカ文化、言語で共通するフランス文化に夢中になりました。その後、表面的には無縁に思える日本文化に不思議な親近感を覚えました。文学、政治、映画に興味がありましたが、それによって何よりも自分を理解したかったのだと思います。要するに、アイデンティティー・クライシスを経験しました。そこで、自分の人生を変えた二人の師匠に出会いました。二人とも大学院の教員でした。一人は17世紀のフランス文学と思想を紹介してくれたと同時に政治とメディア問題を分析する方法を教えてくれました。もう一人は日本文学とアニメの専門家であり、研究分野として日本の魅力を伝えてくれました。その後、私は日本で多くの人にお世話になり、二人の師匠の教えを活かすために東京大学で表象文化論を研究しました。これからは聖心女子大学で、仕事、日常生活に役に立つメディアと異文化理解を教える手助けをする伝道者になりたいです。
また、現在YouTubeで配信されている国際交流基金の「STAGE BEYOND BORDERS」のために、演劇の字幕翻訳を作成しています。