研究テーマの内容、研究活動
古典の授業で『韓非子』の「矛楯之説」を習っていますか? 武具を売っている商人が、自分の楯を指して「この楯はどんなものにも貫かれることはない」といい、また矛を取っては「どんなものでも貫き通す」というと、聞いていた冷やかしの一人が「おまえさんの矛でおまえさんの楯を突いたらどうなるんだ?」というお話です。この説話は『韓非子』の中で2箇所にみられ、論敵の主張に論理的欠陥があることを指摘するときに使われています。当時数式などは使いませんから、論理法則の矛盾律としてこの説話が用いられていたことを推測させます。こうした論理学的な思考が、どういった思想状況の中から生まれてきたのかを研究の対象にしています。論理的な正しさのみを自らの理論の根拠とした墨家集団の活動の中で、排中律・矛盾律が生み出され、それに対抗して矛盾律を否定する道家の思考が現れます。私の研究は、これまで十分には理解されてなかった『公孫龍子』の思考を、こうした思想状況の中に位置づけて理解することを中心に進めています。
研究テーマの意義・面白さ
中高生の頃から哲学に興味を持っていました。ニーチェとかその辺が好きで読んでいました。そのうち中国関係のものも読むようになり、『老子』や『荘子』を読み、将来中国古代の哲学を研究したいと考えるようになりました。そのまま大学で中国哲学科に進み現在に至っています。2000年以上解釈のつかなかった文献を読み解く発想が浮かんだときの衝撃や、人づてに「〜先生(この道の大家)が君の論文ほめていたよ」と聞いたときのしてやったり感や、尊敬する先生から「あの解釈は君ので決まりだね」といわれたときの安心感など、地味で苦しいことばかりの研究生活の中で、少しばかりの喜びです。