研究テーマの内容、研究活動
17世紀から18世紀にかけての西洋近世哲学をおもな研究対象としています。この時期に、近代社会の成立にとって決定的な出来事であった「科学革命」(近代自然科学の誕生)と「市民革命」(民主主義的な国家のあり方の模索)を推し進める思想をつくりあげたのが同時代の哲学者たちでした。たとえばデカルトやパスカルやライプニッツといった哲学者は、当時の新しい数学的自然学の立ち上げに大きな役割を果たした数学者で物理学者でもありました。また、ホッブズやスピノザ、ロックは、人間には「自然権」という生まれつき誰もが平等にもっている権利があり、それを守るために国家がつくられる、とする「社会契約説」を生みだしました。今日の人権や民主主義の思想の原点となる考え方です。
近代の科学的世界観はいったいどのような前提から組み立てられたのか。そこからはどのような問題が生じてきたのか。権利の平等や民主主義はどのような論拠によって正当化されたのか。そこには人間とその社会についてのどのような洞察が潜んでいたのか。こうした問いを彼らが展開していた議論にぶつけながら、現代の私たちが直面しているさまざまな問題を考え直すヒントを探っています。
研究テーマの意義・面白さ
たとえば「人権」の思想も民主主義も「人間は生まれながらにみな平等である」という前提に支えられているように思えます。しかし、実際には私たちは一人ひとりみんな違うし資質や能力や生まれた環境もさまざまで、とても平等とは言えません。それが現実でしょう。では「みな平等」はウソで「人権」はまやかしなのか。民主主義は誤った前提のうえに築かれた砂上の楼閣なのか。こうした疑念を払拭するには、人権も民主主義もまったく当たり前ではなかった時代に、それらを支える思想がどのように立ち上げられたのかを改めてたどり直してみることも有効ではないかと考えています。現代の私たちが自明視してきた価値観の土台がいつしか風化して崩れ落ちようとしているとき、それを補修し、場合によっては再構築する作業がどうしても必要になるのではないでしょうか。