研究テーマの内容、研究活動
『源氏物語』に代表される平安時代の文学作品といえば、〝姫君と貴公子との豪華絢爛な恋物語〟といったイメージが一般にあるように、平安文学を理解する上で「婚姻」の問題は避けては通れません。
とはいえ、実は平安時代の婚姻制度の実態に関しては未だ十分に解明されているとは言いがたいのです。皆さんも、高校の日本史などで「一夫多妻制」「通い婚・婿取婚」などと習ったかもしれませんが、その内実についてはよく分からないところも多いのではないでしょうか。例えば、「大勢の妻たちの序列はどうやって決まるのか」「正妻の条件は何なのか」「結婚に至る手順はどうなっているのか」「恋愛と結婚の区別はどこにあるのか」…など。これらは、平安時代の文学作品を読む人が一度は抱く疑問かと思いますが、研究者の間でも現在に至るまで解釈が分かれている問題なのです。
私の研究では、まずは、このようにまだまだ解明されていない問題も多い平安時代の婚姻制度の実態解明を目指しています。その上で、文学研究の立場から当時の婚姻制度を踏まえて物語の分析をしています。それにより、フィクションである物語ならではの独自性や仕組みを見いだし、作品の魅力を浮かび上がらせることが最終目標です。
研究テーマの意義・面白さ
私が大学で『源氏物語』を学び始めた当初から、すでに平安時代の婚姻制度に関する研究は盛んに行われていました。けれども一方で、議論が錯綜している箇所もあり、また『源氏物語』のような文学作品が歴史史料と同列に扱われていた点も気になりました。歴史制度の観点から検討を加えるのではなく、あえて制度からはみ出すような結婚形態を描き出した『源氏物語』の虚構の方法を考察すべきではないか、そしてそれは、婚姻研究の混乱の整理につながるのではないか、と考えたのが研究のきっかけです。
現在古典と呼ばれている作品は、そのほとんどが数百年以上(時には千年以上)もの間、淘汰されずに読み継がれてきたものであり、にもかかわらず、未だに研究すべき事柄が多く残されているほど懐の深い作品です。その面白さを一人でも多くの人に伝えていけたらと思っています。