研究テーマの内容、研究活動
私の主な研究テーマは森鷗外です。研究で取り組んで来たこと、その第一は、森鷗外のさまざまな作品を詳しく分析し、これまでの定説と異なる解釈を示すことです。それにより、明治・大正期に書かれた森鷗外作品の今日的な意義や、時代を超えた価値を発信しようとめざしてきました。
第二に、森鷗外やその周辺の人々(たとえば鷗外の妹で女性文学者の小金井喜美子(こがねい きみこ))について、資料を探索して事実を調査し、これまで知られていなかった履歴や業績を明らかにする研究に取り組んできました。将来の研究者に、研究の出発点となる基礎情報を用意するためです。
第三に、森鷗外の作品を現代の読者に読みやすく、わかりやすい形で提供するため、注釈つき作品集の出版に関わってきました。また、文学館の図録に鷗外作品に関するエッセイを書いたり、市民向け講演会の講師を務めたりしています。
研究テーマの意義・面白さ
森鷗外は知の巨人です。小説、評論、戯曲、詩歌俳句、翻訳と、あらゆるジャンルの作品を残しました。文学者であると同時に医者(衛生学者)でもあり、陸軍軍医のトップという高級官僚でもありました。和・漢・洋の高い学識を備え、多数の外国語を身につけ、歴史研究、美術、美学などの分野でも業績を残しました。
交流した人々も幅広く、医学界、陸軍関係者はもちろんのこと、皇族、政治家、画家、俳優、女性解放運動家、無政府主義者などさまざまです。森鷗外を通して明治・大正の時代と社会を見通すことができると言っても過言ではありません。
森鷗外を研究して興味が尽きないのは、こうした多様性と総合性をあわせもったスケールの大きさです。
私は、上に述べた三つの研究活動を通して、この巨人が残した遺産を引き継ぎ、私たちの時代に合わせて解釈しなおし、そして次世代へと手渡して行きたいです。