研究テーマの内容、研究活動
1歳齢頃の赤ちゃんはほとんど喋ることはできません。しかし,赤ちゃんは指さしで自分の欲しいものを相手に伝えますし,おもしろいものを見つけたら,指さしてその興奮を相手に伝えます。最近の研究からは,困っている相手の探し物を指さして教え,自分の知らないものの名前を尋ねるために指さすこともわかってきました。指さしを観察することで,私たちは赤ちゃんの豊かな心の動きをとらえることができるのです。
赤ちゃんの指さしに魅了され,私は研究を続けています。いま特に取り組んでいるのは,「なぜ赤ちゃんに指さしがあるのか」という問題です。実はヒト以外で指さしをする霊長類はほとんどいません。ヒトと最も近縁であるチンパンジーは,ヒトと匹敵するような認知能力を持ちながら,指さしをしません。なぜヒトだけが指さしを発達させるのかについて,ヒトの親子だけではなく,チンパンジーの親子を観察することで検討しています。
研究テーマの意義・面白さ
赤ちゃんの指さしは後の言葉の発達と関連していることも知られています。赤ちゃんの指さしから,言葉の発達の遅れの予兆を発見できるかもしれません。言葉の発達の遅れの早期発見と早期介入のために,赤ちゃんの指さしを活かす道も探っています。
また,言葉もなく,指さしもしない動物たちは,どのように互いに意思疎通を図っているのでしょうか。「言葉のない動物たちが,いかに意思疎通を図るか」を検討し,ヒトと比較することで,なぜ私たちが言葉を操れるように進化したのか,わかるかもしれません。言葉を操れることは,ヒトとヒト以外の動物を分ける重要な点です。「ヒトとは何か」を解明するために,私のゼミでは様々な動物たちのコミュニケーションも研究しています。