研究テーマの内容、研究活動
20世紀を中心に自然災害や戦争が日本社会に与えた影響について研究しています。大規模な災害は、社会に深刻なダメージを与えます。
過去にどのような災害があり、どのような対応がなされたか、どのように再建・復興がなされたか、災害の経験や教訓によって社会がどのように変わったかを知ることには、まず防災上の意義が考えられます。しかし、それだけでなく、災害から当時の社会や政治、経済、外交、文化、技術のありようなど、さまざまなことが見えてきます。
たとえば、1905年秋、日露戦争の終結直後、冷害によって東北地方は大凶作に見舞われました。戦争の影響で、ただでさえ苦しくなっていた被災地の人々の暮らしは危機的状況に陥ります。政府も巨額の戦費のために財政状況は厳しく、十分な救援ができません。そこで当時もっとも有力なメディアであった新聞と東北出身の政治家らが協力し、義援金を募集しました。
さらに在日外国人たちが海外にも凶作の惨状を伝えたことで、外国からも義援金が寄せられました。アメリカでは大統領自らが声明を発し、国民に義援金に協力するように呼びかけました。大統領の声明から約2ヶ月後の1906年4月、サンフランシスコで大地震が発生します。今度は日本がアメリカを助ける番だとして、日本からアメリカに義援金が送られました。自然災害は、国内はもちろん国際関係にも影響を及ぼしていたのです。
研究テーマの意義・面白さ
日本は災害の多い国です。地震や津波、火山噴火、台風や豪雨による洪水、土砂災害、暴風などの被害を受けます。それらが社会にどのような影響を及ぼしてきたのかを考えることは、日本という国の特質を明らかにすることにつながります。
研究のきっかけは、1995年の阪神・淡路大震災でした。わたし自身が直接被災したわけではありませんが、それをうけ1923年の関東大震災が社会に与えた影響を研究しました。さらに2011年の東日本大震災後に災害史研究を本格化しました。
同じ場所で同じような災害が繰り返し発生することがあります。過去の災害を知ることは、現代の防災にも役立ちます。ただし、時代が変われば、災害のありようも変わります。災害に限りませんが、歴史はそのまま繰り返すわけではありません。そのことを認識しないと、過去の教訓がかえって有害になることだってあります。歴史に学ぶとは、過去を知り、現代を知り、未来に対する想像力を働かすことなのです。