研究テーマの内容、研究活動
人間は言葉を使ってものを考え、他の人と交流します。私の場合は日本語です。日本語は1300年以上昔の姿がわかる世界的にも珍しい言語で、その間、大きく様変わりしました。私の研究テーマは日本語の歴史です。文献資料を使って過去の日本語の姿を明らかにし、それがどのように変化して、現代の姿になったかを考えます。
例えば、『古事記』は全部、漢字で書いてあるけれど、平仮名はいつから書かれるようになったのだろう?
『万葉集』の時代の人は「マンヨーシュー」とは発音しなかったのに、いつから「マンヨーシュー」と言うようになったのだろう?
『枕草子』の清少納言にとって「雨降れば」は雨が降ったことを表すけれど、現代はifの意味で雨が降っていない意味になる、いつからどうしてそうなったのだろう?
『源氏物語』はあれだけ敬語が複雑なのに、現代語では当たり前の「おっしゃいます」「お座りになります」に当たる言い方はできない、どうしてだろう?
室町時代の文法書を見ると、係り結びの覚え方のコツが書いてある、ということはこの時代にはもう係り結びがわからなくなっていたわけだ、いつなくなったのだろう?また、江戸時代の学者は本当によく古典語を知っている、どうやって勉強したのだろう?
こういう次から次へ浮かんでくる疑問を1つ1つ解決しながら、過去と現在の日本語の姿に向き合っています。
研究テーマの意義・面白さ
現在は過去の延長にあります。「現在なぜこうなっているのか」という問いの答えは、多くの場合「過去の結果」です。過去に何があり、それが現在とどのように関係しているかを考え、明らかにすることは、現在を理解することになります。
言語は、それを使用する人の文化・世界観を最も顕著に映し出します。時代や国・地域によって言語が異なるのは、文化が異なるのです。異なる言語を学ぶことは「異文化」を理解することです。
過去の日本語が映し出す文化は、現在の日本語を使って私たちが生きる「自文化」から見ると、異文化です。しかし、歴史的に自文化と連続しています(ここが外国の文化と違うところ)。だから、過去の日本語を知ることは、異文化を知ると同時に、自文化を拡大することです。日本語の歴史を知ることは、現在の日本語を知ることであり、日本語を知ることは、日本の文化、日本の世界観を知ることになるのです。