きわめて自己韜晦的であり、また実験的な現代作家カズオ・イシグロの長編Never Let Me Goの詳細な読解をしながら、このテクストの持つ21世紀的な意味について考える。イシグロの小説作品には、実は「廃墟」の表象が繰り返し登場し、Never Let Me Goにいたっては廃墟という心象風景が未来へのかすかな希望を暗示する。イシグロの作家的特性に注目し、他の作品にも目配りしながら、「廃墟」という表象の文学的位置づけとその可能性について考察する。
授業概要
Never Let Me Goの精読を基本とするが、イシグロの他の作品および作家自身の自作解説を参照し、この作家の特性を理解しながら、現代文学における「廃墟」の表象を追究する。エコクリティシズムの知見は、一見イシグロの反リアリズム的実験性と相いれないように思いがちであるが、「廃墟」の表象に焦点を合わせることで、イシグロ作品のエコクリティカルな読解を試みる。
テキスト
Kazuo Ishiguro, Never Let Me Go, Vintage Books, 2005. イシグロの他の作品については、授業時に指示する。