聖心女子大学の奥行きを知る
研究者として横顔をご紹介するとともに、研究の意義や楽しさを語ってもらいました。聖心女子大学の魅力をより深く知るために役立てていただきたいと願っています。
研究テーマ | : | 少子高齢化社会における人の心理と適応について |
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著書 | : | 『アクティブラーニングで学ぶジェンダー』(「エイジングとジェンダー写真を通して「老い」を考える」執筆)(共著)ミネルヴァ書房、『人口の心理学へ』(「介護保険制度,老人ホームに住むという選択」執筆)(共著)ちとせプレス、『学びを人生へつなげる家族心理学』(「中高年の夫婦関係」執筆)(共著)保育出版社 |
『人口の心理学へ:少子高齢社会の命と心』
編:柏木惠子、高橋惠子
出版社:ちとせプレス
少子高齢化が進むにつれ、社会の中での人の心のありようや、生死の捉え方などは少しずつ変化をしています。どんなふうに変わってきて、どんな課題があるのか、私たちが生きる今の重要な問題について心理学的視点から書かれています。
『家族心理学―家族システムの発達と臨床的援助』
著者:中釜洋子、布柴靖枝、無藤清子、野末武義
出版社:有斐閣
家族という集団について、家族関係についての課題と克服について多様な視点から書かれています。家族の問題はどこにでもあって、各個人のベースにあるものですから、高校生の皆さんも興味深く読めるのではないでしょうか。
『発達科学入門1〜3』
編集:高橋惠子、湯川良三、安藤寿康、秋山弘子
出版社:東京大学出版会
心、脳、認知機能がどのように発達していくかという「発達科学」の入門書です。専門的なことも分かりやすく説明されています。老年心理を知るのにも最適です。
『新訂増補 精神療法の第一歩』
著者:成田善弘
出版社:金剛出版
臨床家は患者さんとどのように関わっていくべきかについて,第一歩というタイトルにもあるように,初歩から書かれていますが,たとえ臨床歴が長くなってきたとしてもずっと大切にしたいことが書かれています。私自身も、判断に迷ったり、苦しくなったりすることもありますが、そんなときにはここに書かれた考え方を参考にしています。
『臨床心理学ノート』
著者:河合隼雄
出版社:金剛出版
心理学者として大変有名な、河合隼雄先生の著書です。臨床のベースとなることがまとめられた、普遍的な一冊です。
先生の著作。『アクティブラーニングで学ぶジェンダー:現代を生きるための12の実践』(編著:青野篤子)ミネルヴァ書房、『学びを人生へつなげる家族心理学』(編著:土肥伊都子)教育情報出版、『人口の心理学へ:少子高齢社会の命と心』(編:柏木惠子、高橋惠子)ちとせプレス
心理学を専門とする、神前裕子先生の主な研究分野は「少子高齢化社会における人の心理と適応」である。「少子化」「高齢化」は、身近な社会の課題として目にすることの多いキーワードだ。だが、それは心理学とどのような関連があるのだろう。
「高齢化という側面では、高齢となったご家族を介護している人の心理に注目し、調査・研究をしています。介護する人も、また介護される側の人も、安心して暮らせるためには何が必要なのかを考えることが大きなテーマです。」
神前先生の母は長年訪問看護師の仕事に従事しており、医療的な看護の側面だけでなく、介護する方、される方の悩みや不安についての話を聞く機会が多くあったという。これをきっかけとして、高校時代は「患者さんの相談に乗る」ソーシャルワークに興味を持ったそうだ。
「大学院時代は、在宅で家族を看取った方のインタビュー調査を行っていました。介護というと苦しい、大変なものというイメージが浮かびますが、大切な家族を最後まで家で看られたことに満足感を感じている方もいるなど、多様な気持ちに出会ったことが印象的でした。また、介護をしている方が、自分自身の楽しみを持つなどした時に、介護もより前向きに行えること、ヘルパーさんや訪問看護師さんの心を支えるサポートがとても大切であることも分かりました。」
介護する人、される人の心理を知り、分析をする。それを当事者に伝えていき、現場の方々の役に立つことが、神前先生の研究のモチベーションとなっている。
「病床にあってもその人らしく過ごすこと、そしてそれを支える介護者の心の健康について考え、一人ひとりにとってより良い選択ができるようにすることは、高齢化が進む現代にこそ求められている研究なのです。」
神前先生のもう一つの軸は「少子化」だ。現代は、家族や社会のサポートが多かった昔に比べ、赤ちゃんを育てる親が孤立化するなど、困難が多い時代である。
「妊娠、出産、そして育てるまでの母親と家族の心理的なケアについての取り組みも、深めていきたいと考えています。臨床心理士が関わるべき場はまだまだたくさんあると思っています。」
例えば神前先生は、がんに罹患している親を持つ子どものケアや研究にも関わったことがある。学校現場などで、そうした子どもにどのようなケアをしているかの意識調査を実施ところ、逆にスクールカウンセラーや養護教諭などから、情報や方法論を求める声があったという。
「がん患者のターミナルケア(終末期医療)に関わった経験から、ケアの方法や、子どもにこんな変調のサインがあるかもしれないといったポイントをまとめて冊子を作りました。これからも、研究も臨床もまだ入っていない未開拓の領域、そしてケアを必要としているに心に、できる限り向き合っていきたいと思います。」
心理学は、例え専門家を目指すことはなくても、どんな人にも役立つ学びであると、神前先生は語る。
「人生を生きていく中で、誰しもさまざまな悩みや困難にぶつかりますが、心理学の専門知識は、自分の状況を冷静に眺め、分析して問題を解決する助けになってくれるでしょう。身近なところではあらゆる世代に共通する人間関係の問題など、日常の中で役立つようなことをなるべく伝えられたらと思いながら、日々の授業を行っています。」