聖心女子大学の奥行きを知る
研究者として横顔をご紹介するとともに、研究の意義や楽しさを語ってもらいました。聖心女子大学の魅力をより深く知るために役立てていただきたいと願っています。
研究テーマ | : | イギリスを中心とするヨーロッパ近世史 |
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著書・論文 | : | 『主権国家と啓蒙』(共著)岩波書店 『魔女狩り』(訳)岩波書店 『イギリス史研究入門』(共著)山川出版社 |
『薔薇の名前』〈上〉〈下〉
著者:ウンベルト エーコ
訳者:河島 英昭
出版社:東京創元社
14世紀のイタリアの修道院を舞台にした、歴史ミステリです。ホームズとワトソンが下敷きになったような探偵と助手のコンビが主人公となり、連続殺人事件の謎に挑みます。中世の修道院の生活がものすごくいきいきと描かれているのも読みどころです。大長編であり、少し難しいところもあるかもしれませんが、さまざまにはりめぐらされた仕掛けを楽しみながら、ゆっくり読んでみてください。
史学科でイギリスを中心としたヨーロッパの近世史を専門としている小泉徹先生の、今年度のゼミのテーマは「帝国」である。これは、ゼミ生たちの希望から決めたものだという。
「ゼミでの主役は学生ですし、1年かけてみっちり取り組むにふさわしいテーマでないと厳しいと思います。まずは“大英帝国”についてのテキストを講読していますが、卒業論文にまとめる各自の研究の中ではどこまで話が広がってもかまわないとしています」
言葉のはしばしから、小泉先生がいかに学生それぞれの主体性を重んじているかが感じられる。
「たとえばローマ帝国やオスマン帝国など、歴史上のさまざまな帝国と比較してみるのも面白いかもしれません。もちろん何を面白いと感じるかはその人次第です。切り口が見つからなければアドバイスもしますが、できる限り自分なりのものを見つけてほしいと思います」
前期のゼミでは、基礎的なテキストとして井野瀬久美惠『大英帝国という経験』を読み、それについて各々が考えたことを述べ合う。また、テキストに登場するキーワードについて調べ、発表するという2点が軸になっている。
「ゼミを進めるうえではなるべく学生が多く発言できることを心がけています。多少、本筋からずれてもかまわないので、できるだけたくさん意見交換してほしいと思っています」
小泉先生は、大学で一番大切なのは「話すこと」だと語る。
「私が学生だった時代は、実によくしゃべったと思います。講義の内容について熱く話し合うこともあれば、どうでもいいようなことも熱心に長い時間話したものです。娯楽が少なかったですし、また今の学生ほどアルバイトの選択肢もなく、お金がなかったせいでもありますが」
勉強につながってもつながらなくてもいい。さまざまな意見を述べ合って、人の考えを知り、またその過程で自分の考えも固まっていく……そうした経験はとても貴重だったという。
「ですが、現代を生きる学生には、今のやり方があるはずですから、もちろん押しつける気持ちはありません。学生時代は、その人が思う“いい時間”を過ごしたと思えればそれでいいと思うのです」
小泉先生ご自身は、どんな学生だったのだろうか。
「もっと勉強するなり、もっと遊ぶなりすれば良かったと思います。振り返ってみると中途半端だったのではないでしょうか」
友人と話すこと以外に、時間を多く費やしたのは読書である。
「専門の本ばかりではなく、ミステリなどの小説もたくさん読みました。また、ちょっと背伸びした本も読んでいたと思います。友人に『あれは読んだか?』と聞かれると、読んでいないのに見栄を張って話を合わせたりしたものです」
しかし、結果的には急いでその本を読むことになるのだから、あながち見栄を張るのも悪いとはいえないだろう。将来研究者になるとは想像もしていない、若き日の小泉先生の微笑ましいエピソードだ。
「大学生くらいの年頃では、少し背伸びするくらいがいいでしょう。難しそうな本も、読んでいればいずれわかるだろうと思って挑戦してほしい。今、スッとわかるものしか読んでいないと、いつまでもそのレベルから成長できないことにもなります」
小泉先生が学生に望むのは、「どこにいても力強く生きていける人になってほしい」ということだ。
「そのためには、誰にでもできることをきちんと継続してやりなさいと言っています。地味なアドバイスに感じるかもしれませんが、実際、社会に出て活きるのはそういう力なのだと思います」