聖心女子大学の奥行きを知る
研究者として横顔をご紹介するとともに、研究の意義や楽しさを語ってもらいました。聖心女子大学の魅力をより深く知るために役立てていただきたいと願っています。
研究テーマ | : | 談話分析と老年学 |
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著書 | : | Hamaguchi, Toshiko. 2011. Family Conversation as Narrative: Co-Constructing the Past, Present, and Future. In Yoshiko Matsumoto (ed.), Faces of Aging: The Lived Experiences of Elderly in Japan, pp.221―237. Stanford: Stanford University Press. |
『マイ・フェア・レディ』(DVD写真右)
監督:ジョージ・キューカー
税込価格:\3,980
発売元:ワーナー・ホーム・ビデオ
下町育ちの女の子が、言語学者から上流階級の話し方の指導を受け、立派なレディに変貌していくシンデレラ・ストーリーです。物語としても十分おもしろいのですが、しゃべり方、発音などを直されていくうちに、ヒロインの印象や周囲からの評価がどう変わっていくのかに着目してみてください。そうした視点をひとつ持ってみると、映画ひとつでも、さまざまな楽しみ方が生まれてきます。
現在、我が国は超高齢化社会を迎えている。そのことを「つまり、高齢者の役割が大きい社会」と表現する濱口壽子先生の言葉の中には、すでに社会へのゆるやかな提言が含まれている。
「私はコミュニケーションの観点から老年学を研究しています。年をとると言葉が出にくくなったり、記憶があいまいになったりするので、高齢者と話していると内容がかみあわないな、と思うことがあります。では、そうした場合にどのようにコミュニケーションをとっていくべきか。痴呆症やアルツハイマー病など、高齢者にみられる病気がある場合、高齢者の言語にどのような影響が出て、聞き手はどうそれに対応すべきかをあきらかにすることを目指しています」
この研究は、濱口先生自身が大学院生時代に、お婆様との会話になにか違和感を感じはじめたことが起点となっている。テープレコーダーを置き、お婆様と自分、また他の家族との、日常的な会話を録りためた。これを聞き取ってテキストに書き起こし、会話の中で何が起こっているかを分析する研究手法だ。
たとえば高齢者は、よく「あれ」という言葉を使う。「あれ、おいしかったわよね?」と言われたときの対応にも、聞き手それぞれのコミュニケーションスキルが表れる。「あれじゃわからないわ」と言う人もいれば、自分なりに記憶を掘り起こし「この間いただいたお菓子のこと?」と返す人もいる。後者のほうが、聞き手が高齢者と円滑なコミュニケーションを図ろうとしている姿勢が見えるといえる。
しかし、濱口先生は「この研究は、聞き手の良し悪しを判断するものではない」という。目的は「何がコミュニケーションの障害になっているか」を考察すること。早口で話しすぎていたり、質問をしすぎたりするという聞き手の行動は、しばしば問題と指摘されるが、研究姿勢は「その状況に応じて、聞き手の言動が話し手にどういう影響を与えているか」を見るものだ。
濱口先生の研究分野は、社会言語学に属する。言語はどう社会に影響を与え、また社会はどう言語に影響を与えているかを考察する学問なのである。
「研究の先例から、高齢者への接し方が見直されているのも事実です。たとえば、以前はどんな高齢者に対しても一律に耳が遠いと決めつけて大きい声で話すとか、赤ちゃんに話しかけるような口調で話すといったことがありました。しかし、これらは高齢者を思いやっているように見えて、実際は『個人』を無視した行為だという認識が広まったため、現在では少なくなっています」
濱口先生は現在、介護施設での研究も行っている。そこにはまた、家族間とは異なる枠組み(たとえば医療関係者やスタッフ、入居者)が存在するためだ。
「これからの日本では、さらに高齢者と接する機会が増えていきます。同じ家に住んでいなくても、だれもが街の中で、いろんな場面で高齢者と出会っています。コミュニケ―ションの観点から高齢者を理解し、共存できる社会を作っていくことに貢献できればと日々考えています」