聖心女子大学の奥行きを知る
研究者として横顔をご紹介するとともに、研究の意義や楽しさを語ってもらいました。聖心女子大学の魅力をより深く知るために役立てていただきたいと願っています。
研究テーマ | : | ソーシャル・ネットワークの視点から子どもの発達・適応について研究しています。また、スクール・カウンセリングを含め子どもへの援助・介入にも関心があります。 |
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著書 | : | 『心理学とジェンダー』(共著)有斐閣 『小児医療心理学』(共著)エルゼピア 『HUMAN CHARACTERISTICS』(共著)Cambridge Scholars Publishing 『子どもの臨床心理アセスメント』(共著)金剛出版 |
『子どものこころの不思議』
著者:村田豊久
出版社: 慶應義塾大学出版会
児童精神科の先生が書いた本です。子どもに真剣に向き合ってきた臨床の現場を伝えるもので、心の病気についてもわかりやすく書かれています。
『子どもの心に出会うとき―心理療法の背景と技法』
著者:村瀬嘉代子
出版社:金剛出版
臨床心理士である著者が、自分の体験に基づいた大事なエッセンスを盛り込んで、子どもの心理療法について、具体的に紹介したものです。どちらも子どもの臨床が中心ですが,心理臨床に興味を持った方に、ぜひ読んでいただきたい,一般的な入門編としてもおすすめしたい本です。
先生が作成した「こどもアンケート」。これは、子どものQOL(Quality of Life)を測定する質問紙で、このようなアンケートによって調査をして、研究を行っている
近年、不登校児童生徒の数はやや減少傾向にあるとはいえ、小中学校を合わせて全国では10万人以上もいるという。いじめの深刻化、家庭内の問題、発達障害など要因はさまざまだが、それにともなって子どもを専門にみるカウンセラーの需要は高まっている。
柴田玲子先生は大学院生時代から、大学病院の小児科や学校現場でカウンセラーを務め、今なお実践を行いながら、その成果を研究、および教育に結びつけている。
「多くの子どもとの臨床経験から、子どもの自己回復力の大きさには目を見はるべきものがあると感じています。しかし、同時にその環境を整えていく大人の責任も痛切に感じています。臨床実践から得られた様々なものを、臨床心理学を学ぶ学生に伝え、また研究に昇華させていくことが私の目標です」
カウンセラーとは、心の調子のよくない人に対面する仕事である。相手の口からこぼれるのは、当然楽しい話ではない。そうした忍耐力のいる仕事に、柴田先生がやりがいと喜びを感じてやまないのは、人が変化する瞬間に出会えるためだという。
「不登校気味の男の子を、相談室で預かっていたときのことです。彼は、あるきっかけで給食を食べることができなくなり、友だちも避けて殻に閉じこもっていました。相談室でカウンセラーと話ができるようになってきた頃、カウンセラーも入って子ども同士で遊ぶように水を向けてみたのです」
その子は、友だちと遊ぶ楽しさを感じられたようだった。すると友だちと遊びたいという欲求が芽生え、ほどなく友だち同士で遊ぶことができるようになった。
「ある寒い日の夕方、相談室の窓をたたく音がしました。窓を開けてみると、彼が友だちといっしょに、汗をにじませた笑顔を見せました。腹減ったーと言った彼の笑顔、今でも忘れられません。子どもは思いっきり遊べば、自然とお腹がすいて夜も熟睡できるのです。ようやく子どもらしさが戻った彼に、子ども本来のたくましさを見た思いでした」
いったん変化しはじめると、これまでの鬱屈を吹き飛ばすようにエネルギーを発しはじめる。「人とは、こんなに変われるものなのだ」と勇気を与えられることもしばしばだという。
見る人によって見える物が違う「ルビンの壺」
「カウンセリングとは基本的に、相手の話を受けとめながら、相手に気づきをもたらすようサポートしていくものです。決してこちらから何かを教えたり、指示するということではありません」
「ルビンの壺」というだまし絵は、心理学の世界では有名だ。黒い部分に目を当てると、白い壺が見える。白い部分に注視すると、人の横顔が見える。両方を同時に見ることは不可能だ。これは「図と地」の関係と呼ばれるもの。「図」は形として認識される部分、「地」はその時背景として認識される部分のことである。
「最初は、相談者には、今はつらくて大変だという状況しか見えていません。『図』だけが見えている状態なのですが、本当は同時に『地』も存在しています。ですが、話をしていく中で、その人にふと『地』が見える瞬間が生まれます。その時に、その人の気持ちがふっと変わり、今まで見えなかったことが見えてくるのです」
こうした気づきを促す形でサポートすることが、カウンセラーの役割だと柴田先生は語る。
「さらに、相談者と一対一の関係だけではなく、学校の先生や保護者の方への対応など、多面的な配慮も必要となります。相談者が子どもであればもちろんのこと、大人であっても、その人の生活環境を整えることへの目配りは重要です」
こうした技能を習得することは、臨床心理士やスクールカウンセラー以外にも、教師やほかの職業、ひいては個人的な場面でも役立つことが多そうだ。
「現代社会では、心の問題は大きな課題となっています。メディアでも毎日のように、うつ、発達障害、虐待、DVといった言葉が取りあげられますが、一方で言葉だけがひとり歩きをして、その正しい意味が伝わっているかは疑問です。学生には、まず正しい知識を得てほしいと思います。無知であることが時に人を傷つけることもあるからです」
「学部生には、臨床心理学を学んだことが、自分を見つめるきっかけになり、より広い視野で物事を考えられる人間になってほしいと思います。さらに、大学院に進み専門の道を選択する人もいますが、臨床心理士として必要なカウンセリングの諸技法などを学ぶだけでなく、豊かな人間性も養ってほしいと願っています」