聖心女子大学の奥行きを知る
研究者として横顔をご紹介するとともに、研究の意義や楽しさを語ってもらいました。聖心女子大学の魅力をより深く知るために役立てていただきたいと願っています。
研究分野 | : | ヨーロッパ近現代哲学 |
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研究テーマ | : | 知覚と身体と労働の相関性にみる自由の概念の変遷 |
著書 | : | 『ヴェーユ』(人と思想107)、清水書院、1992年。『シモーヌ・ヴェイユ 力の寓話』青土社、2000年。“Tove Jansson och japanska la¨sare: Mina mo¨ten med Tove Jansson,” Resa med Tove, (redigerad av Helen Svensson), Schildts, 2003, ss.118-130.『ムーミンを読む』講談社、2004年。『トーヴェ・ヤンソンとガルムの時代』青土社、2009年。『ムーミン谷のひみつの言葉』筑摩書房、2009年。『ムーミン谷のひみつ』、『ムーミンのふたつの顔』ちくま文庫、筑摩書房、2008年、2011年。シモーヌ・ヴェイユ』(岩波人文書セレクション)岩波書店、2012年。 |
訳書 | : | ヴェーユ『ギリシアの泉』、『カイエ4』、『カイエ3』みすず書房、1988年、1995年、1992年。ヤンソン『彫刻家の娘』、『小さなトロールと大きな洪水』講談社、1991年、1992年。「トーベ・ヤンソン・コレクション」(全8巻)筑摩書房、1995年〜1998年。ヤンソン『島暮らしの記録』筑摩書房、1999年。『中世思想原典集成 15 女性の神秘家』(監修、総序、共訳)平凡社、2002年。『ヴェイユの言葉』(編訳、おとなの本棚)みすず書房、2003年。ヴェイユ『自由と社会的抑圧』、『根をもつこと』(全2巻)岩波文庫、岩波書房、2005年、2010年、2010年。フィル・キルロイ『マドレーヌ=ソフィー・バラ』(共訳)みすず書房、2008年。カリン・ボイエ『カロカイン 国家と密告の自白剤』(lettres)みすず書房、2008年。『トーベ・ヤンソン短篇集』、『トーベ・ヤンソン短篇集 黒と白』、『誠実な詐欺師』(編訳)ちくま文庫、筑摩書房、2005年、2012年。『シモーヌ・ヴェイユ選集1 初期論集―哲学修業』、『シモーヌ・ヴェイユ選集2 中期論集―労働・革命』、『シモーヌ・ヴェイユ選集3 後期論集―霊性・文明論』(編訳、全3巻)みすず書房、2012年、2012年、2013年(近刊予定)。 |
『マルセロ・イン・ザ・リアルワールド』
著者:フランシスコ・X・ストーク
翻訳:千葉 茂樹
出版社:岩波書店
主人公マルセロは、発達障害のある17歳の男の子。夏休みのあいだ、「リアルな世界」を体験すべく、お父さんの弁護士事務所で働くことになる。とまどうマルセロのさまざまな体験が、美化されることなく、しかも魅力的に語られます。
『知性改善論』(岩波文庫)
著者:スピノザ
翻訳:畠中 尚志
出版社:岩波書店
哲学を学ぼうとする人のための手引書。スピノザがやさしい言葉で、深い真理を語ってくれます。知らぬまにこびりついてしまった汚れを知性からとりのぞいてみよう、きっとあたらしい視野が開けますよと。
たった一冊の本が人生を決めることがある。冨原眞弓先生の場合が、まさにそうだった。英語学科に学んでいた20歳の時、学生寮の本棚でふと手にとったシモーヌ・ヴェイユの哲学書に、強烈な印象をうけたそうだ。
先生の編集・翻訳したヴェイユの本。『ヴェイユの言葉』『シモーヌ・ヴェイユ選集 1―― 初期論集:哲学修業』『シモーヌ・ヴェイユ選集 II―― 中期論集:労働・革命』みすず書房。
「人間はなんのために生きるのか、と若者らしく悩んでいる時期で、ヴェイユに出会ってはっとしたのです。これまでの自分の常識や思いこみにとらわれず、頭のなかの抽斗(ひきだし)をいったんひっくり返し、ゼロから自力で考えなおす。それをきちんとやると、あたらしい世界がひろがる。人生は180度変わる(かもしれない)。これこそヴェイユが教えてくれた哲学の力でした」
自分なりの価値規準をきずきあげ、その規準にしたがって生きようとするのが哲学だとするなら、冨原先生が感じたヴェイユの魅力は、自身の哲学と生きかたのあいだに数ミリのずれもないことだった。ヴェイユをもっとよく知りたい一心で、大学院に進学。フランス政府給費留学生になれたときは、これで思いっきり勉強できると、ほんとうにうれしかった。約3年間のパリ・ソルボンヌ大学への留学時代に、〈仲介〉の観念をめぐるヴェイユのプラトン受容を扱った博士論文を書きあげた。
先生の著作。『シモーヌ・ヴェイユ』岩波書店
学生生活を終えた直後からヴェイユの著書の翻訳や入門書を執筆する一方、思想的伝記ともいうべき『シモーヌ・ヴェイユ』や知覚と労働に根拠をおく自由を論じた『シモーヌ・ヴェイユ 力の寓話』といった研究書を著し、ともすれば異端のキリスト教神秘家・革命的トロキスト・工場労働とレジスタンスの聖女といった「わかりやすい」レッテルを貼られ、一面的な視点からのみ語られることの多かったヴェイユを、なによりもまずデカルトを祖とするフランス哲学の系譜につらなる、なおかつ独自の思想を生みだした哲学者として、正当に評価する試みを続けている。
先生の著作。『シモーヌ・ヴェイユ 力の寓話』青土社、『シモーヌ・ヴェイユ』(岩波人文書セレクション)岩波書店。
「哲学というのは、哲学史的な脈絡のなかで学ぶ必要があると思います。古代ギリシア哲学、キリスト教神学、心身二元論、近代認識論はもちろんのこと、ヴェイユでいえば知覚論や現象学の影響も無視できません。受講する学生にも、さまざまな側面から主題や哲学を考察する姿勢を身につけてもらいたいと思っています」
哲学はとっつきにくいと感じるのは誤解、むしろ「哲学は日常的な営み」と、冨原先生は力説する。
「人間ならだれでもつねに考えています。たとえばお昼になにを食べるかだって、そのときの気分、体調、熱量、予算などの条件をあわせて、無意識のうちに、一瞬で判断しています。なにを食べるか、だれとつきあうか、どこに散歩に行くか、といった日々の選択のひとつひとつが、人生をかたちづくっているのです。けれども、それを意識的に選びとっているか、なんとなく流されて選んでいるかで、人生の中身は違ってくるかもしれません。自覚的に行動するほどに、各々の哲学は育っていくもの。そういう意味で、哲学は出来あいのなにかを学ぶのではなく、植物のように養分と愛情を注いで、自分のなかでじっくりと育てていくものだと思います」
高名な哲学者たちの考えを鵜呑みにするのは、あまり意味がない。それを素材として自分が生きていく指針をみいだす。これが哲学です。
先生の著作。『トーヴェ・ヤンソンとガルムの世界―ムーミントロールの誕生』青土社。
冨原先生は哲学とおなじくらい文学も好きで、中高生の頃から毎日、外国文学の文庫本1冊は読んでいた。ヴェイユ研究のかたわら、「ムーミン」の作者であるトーベ・ヤンソンの創作活動の全体像を紹介した研究者、またおとな向けの小説など未邦訳作品の大半を訳した翻訳者としても知られている。
先生の翻訳。スウェーデンの国民的詩人ボイエの散文の代表作。『カロカイン−国家と密告の自白剤 (lettres)』みすず書房。
30代で初めて読んだムーミンの物語の奥深さに驚いた、と冨原先生は語る。
「描かれているのは、みなそれぞれに自由であるということ、そしてお互いに違いをうけいれる寛容さです。これほどいいかげんで、これほど潔い世界はないと思いました」
スウェーデン語をいちから学び、日本では知られていなかったヤンソンのおとな向けの小説を訳出。また、もともとはスウェーデン語系の諷刺雑誌『ガルム』で1930年代にデビューし、やがて児童文学の主人公となるムーミンの変貌を描く『トーヴェ・ヤンソンとガルムの世界』などの研究書もある。
「スウェーデンの詩人、カリン・ボイエの代表作『カロカイン』の翻訳も、忘れがたい仕事でした。表象力と喚起力のある精緻で美しい詩的な文体を、原文の水準にみあう日本語に翻訳するのはとてもむずかしく、それだけに納得のいく言葉を探しあてたときの喜びはひとしおでした」
「若いころに心から好きになれるものに出会えたのは、すばらしい幸運でした」。これと思ったものに食らいつき、努力を惜しまない。冨原先生の言葉は熱く、説得力がある。
先生の翻訳。スウェーデンの国民的詩人ボイエの散文の代表作。『カロカイン−国家と密告の自白剤 (lettres)』みすず書房。
先生が翻訳したヤンソンの本。『第1巻 黄金のしっぽ 』『第14巻 ひとりぼっちのムーミン』(ムーミン・コミックス全14巻)、『軽い手荷物の旅』『誠実な詐欺師』『クララからの手紙』『石の原野』『人形の家』『太陽の街』『フェアプレイ』『聴く女』(トーベ・ヤンソン・コレクション全8巻)、すべて筑摩書房。
先生の著訳書。『誠実な詐欺師』『トーベ・ヤンソン短篇集』『トーベ・ヤンソン短篇集 黒と白』『ムーミン谷のひみつ』『ムーミンのふたつの顔』(以上、ちくま文庫)『島暮らしの記録』筑摩書房。『彫刻家の娘』講談社。