聖心女子大学の奥行きを知る
研究者として横顔をご紹介するとともに、研究の意義や楽しさを語ってもらいました。聖心女子大学の魅力をより深く知るために役立てていただきたいと願っています。
研究テーマ | : | 初期近代英文学、翻訳理論と実践、英国児童文学 |
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【 著訳書 (1990‐2014年) 】 | |
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・ | 『架空地名大事典』(共訳)講談社 |
・ | 『なぜベケットか』(単独訳)白水社 |
・ | 『シェイクスピア・ハンドブック』(共著)新書館 |
・ | 『恍惚のマリエット』(単独訳)白水社 |
・ | 『シンデレラ』(単独訳)新書館 |
・ | 『不思議の国をつくる キャロル、リア、バリー、グレアム、ミルンの作品と生涯』(単独訳)河出書房新社 |
・ | 『ベケット大全』(共著)白水社 |
・ | 『岩波=ケンブリッジ世界人名辞典』(編集協力、共訳)岩波書店 |
・ | 『ルイス・キャロル伝』(上下巻、共訳)河出書房新社 |
・ | 『逸脱の系譜』(共著)研究社 |
・ | Hot Questrists after the English Renaissance: Essays on Shakespeare and His Contemporaries(共著)New York:AMS Press |
・ | 『クマのプーさんスクラップブック』(単独訳)筑摩書房 |
・ | 『シェイクスピア辞典』(共著)研究社 |
・ | 『シェイクスピアを盗め!』(単独訳)白水社 |
・ | 『絵本のなかへ』(単独訳)青土社 |
・ | Resa med Tove(共著)Polvo, Finland: Schildts |
・ | Toven matkassa: Muistoja Tove Janssonista(共著)Helsinki, Finland: WSOY |
・ | 『くまのプーさん 英国文学の想像力』(単著)光文社新書 |
・ | 『シェイクスピア 世紀を超えて』(共著)研究社 |
・ | 『シェイクスピアを代筆せよ!』(単独訳)白水社 |
・ | 『完訳 架空地名大辞典』(共監訳)講談社 |
・ | CD-ROM『シェイクスピア大全』(共著)新潮社 |
・ | 『〈インテリア〉で読むイギリス小説―室内空間の変容』(共著)ミネルヴァ書房 |
・ | 『〈食〉で読むイギリス小説―欲望の変容』(共編著)ミネルヴァ書房 |
・ | 『オフィーリア』(単独訳)白水社 |
・ | 『野獣から美女へ―おとぎ話と語り手の文化史』(単独訳)河出書房新社 |
・ | 『シェイクスピアの密使』(単独訳)白水社 |
・ | 『アンデルセン―ある語り手の生涯』(単独訳)岩波書店 |
・ | 『共生と平和への道―報復の正義から赦しの正義へ』(共著)春秋社 |
・ | 『イギリス哲学の基本問題』(共著)研究社 |
・ | 『20世紀英語文学辞典』(共著)研究社 |
・ | 『英語文学事典』(共著)ミネルヴァ書房 |
・ | 『イギリス文化55のキーワード』(共著)ミネルヴァ書房 |
・ | 『箱舟の航海日誌』(単独訳)光文社古典新訳文庫 |
・ | 『マドレーヌ=ソフィー・バラ―キリスト教女子教育に捧げられた燃ゆる心』(共訳)みすず書房 |
・ | 『英国王のスピーチ―王室を救った男の記録』(単独訳)岩波書店 |
・ | 『シャガール―愛と追放』(単独訳)白水社 |
・ | 『バイバイ、サマータイム』(単独訳)岩波書店 |
・ | 『シェイクスピアを追え!―消えたファースト・フォリオ本の行方』(単独訳)岩波書店 |
・ | Garm the People’s Watchdog: Tove Jansson and Finland-Swedish Culture’s Definitive Caricature Magazine(監訳)青土社 |
・ | Shakespeare Jubilees: 1864-2014(共著)Berlin: LIT Verlag 近刊予定 |
・ | 『エフィー・グレイ、ラスキン、ミレイの生涯』(仮題)(単独訳)岩波書店 近刊予定 |
【 論文・その他 (2003‐2008年) 一部抜粋 】 | |
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・ | 「ヴァーチャルなクマとブタ―〈森の王〉と〈森のおまけ〉」『ユリイカ』2004年1月号 青土社 |
・ | 「旋風のごとく襲いきた戦争の果てに―マーガレット・キャヴェンディッシュの亡命と文学」『宗教と文化』第24号 聖心女子大学キリスト教文化研究所 |
・ | 「ナルニアへの扉―C・S・ルイスの再神話化にみる『よろこび』の具象」『文藝別冊 ナルニア国物語―夢と魔法の別世界ファンタジー・ガイド』河出書房新社 |
・ | 「文学の地名にみる架空と現実の曖昧な境界―ルキアノスからトールキンまで」『言語』2006年8月号 大修館 |
・ | この一冊を読み直す:楠明子著『英国ルネサンスの女性たち:シェイクスピア時代における逸脱と挑戦』Shakespeare News Vol.42 no.3 日本シェイクスピア協会 |
・ | 『ロミオとジュリエット』:その普遍的魅力 アートユニオン『カンパネルラ』2003年6月号 |
・ | 「芝居はこの世を映す鏡である」『シェイクスピアを盗め!』プログラム 劇団うりんこ |
・ | 「リベンジャーズ・トラジディ」ケーブルホーグ/映画『リベンジャーズ・トラジディ』プログラム |
・ | 「はじめに魔法の森ありき」『ユリイカ』2004年1月号 青土社 |
・ | 「落ち込んでいる時はユーモア文学を」『英語教育』2004年10月号 大修館 |
・ | デイヴィッド・デュラント著、上野美子訳『ハードウィック館のベス』『英日文化』79巻 英日文化協会 |
・ | ゲアリー・ブラックウッド著『シェイクスピアの密使』『書物の森:翻訳ほりだし物』 東京新聞文化欄 |
・ | 『アンデルセン』日本経済新聞インタビュー記事 |
・ | 「作品論4『石の原野』:消尽する言葉、女神の恩寵」『飛ぶ教室』第4号(2006年冬号)光村図書出版 |
・ | 「児童文学・別世界ファンタジー15選」『文藝別冊 ナルニア国物語―夢と魔法の別世界ファンタジー・ガイド』 河出書房新社 |
・ | 「Where there's a Will, there's a way―Shakespeare教育の試み」Shakespeare News Vol.45 no.3 日本シェイクスピア協会 |
・ | 「苦手な作家」『英語青年』152巻第3号 研究社 |
・ | 「総論:クマのプーシリーズにみるライフ・ストーリーズ」『飛ぶ教室』第6号(2007年夏号) 光村図書出版 |
・ | 「イノセンスをなつかしむ一冊」『飛ぶ教室』第8号(2007年冬号) 光村図書出版 |
・ | 「Carol Thomas Neely, Distracted Subjects: Gender and Madness in Shakespeare and Early Modern Culture」Shakespeare Studies Vol.44 日本シェイクスピア協会 |
・ | 「おとなのための〈守り人〉との出会いかた―『精霊の守り人』『闇の守り人』を読む」『ユリイカ』2007年6月号 青土社 |
・ | 「西洋文化にみる〈霊〉の構築―表象とメディア Marina Warner, Phantasmagoria: Spirit Visions, Metaphors, and Media into the Twenty-first Century」『英語青年』第153巻第5号 研究社 |
・ | 「ヒーローは可能か―RSC公演『コリオレイナス』と『マクベス』」Shakespeare News vol.47 no.1 日本シェイクスピア協会 |
・ | 「現代に生きるシェイクスピア」『英語教育』2007年10月増刊号「特集・声に出して読みたい英語」 大修館 |
・ | 「石井桃子さんのプー物語」『飛ぶ教室』第11号(2007年秋号) 光村図書出版 |
・ | 「普段着のシェイクスピア Charles Nicholl, The Lodger:Shakespeare on Silver Street」『英語青年』第153巻第11号 研究社 |
・ | 「しぶる花嫁―美女と野獣」(訳)『英国バーミンガム・ロイヤル・バレエ2008年日本公演プログラム』日本舞台芸術振興会 |
・ | 「RSC歴史劇プロジェクト―Richard IIとHenry Vを中心に」Shakespeare News vol.47 no.3 日本シェイクスピア協会 |
『ピーター・ラビットのおはなし』シリーズ
著者:ビアトリクス・ポター
「ピーター・ラビット」シリーズは日本でも刊行されていますが、これは1906年刊行の「こわいわるいうさぎのおはなし」で、とても珍しいじゃばら絵本です。私がイギリスに住んでいた小さい頃、母の友人のイギリス人女性がくださったものです。おとなになってから貴重なものと知り、大切に保管しています。
小さな子どもでも楽しめる絵本シリーズですが、おとなの目から見るとまた新たな発見があります。優れた絵本は、短いながらも選りすぐりの言葉で構成されています。また、絵にさりげなく込められたメッセージ性にも注目してください。悪さをしたうさぎがひやりとさせられるという現実的な描写がありつつも、そのシーンは描かれません。このように作り手による配慮と物語的な挑発とのバランスが絶妙であるがゆえに、時代と年齢を問わず愛されているのではないでしょうか。
「ゼミではひとりひとりの個性を尊重します。ゼミの卒業生は教員、外交官、芸術・出版・報道関係、航空会社・商社・銀行勤務、また家庭にあってボランティアなどで活躍していますが、今後も社会のさまざまな場面でますます貢献することを願ってやみません。内外の大学院に進学した元ゼミ生の活躍を見聞きするのも喜びです」
「私の座右の銘は“千里の道も一歩から”です。学生のみなさんには、大変なことにこそ挑戦してほしい。それは必ず自分の力になりますから。それから、学生時代には好きなことを思い切りやってほしいです。あとで役に立つかどうかなどは計算せずに、一生懸命に取り組んでほしいと思います。若い人は不器用でいいのです。磨きをかける時間はいくらでもあります。小さくまとまらず、やりたいことを思い切りやってください」
安達先生が翻訳したアーサー・ラッカム画
『シンデレラ』
安達まみ先生の専門とする研究分野はシェイクスピア及び同時代のテクストだが、活躍の場は幅広く、関心は児童文学、美術・映像・舞台芸術に及ぶ。さらに翻訳家としても手がける分野は長編小説、伝記、文芸評論、文化論や辞書など多岐にわたる。
先生が寄稿したシェイクスピア論文集
「出発点はとにかく英語が好きという気持ちです。英語にまつわる興味がつながり広がっていき、気がついたら研究者になっていましたが、今もやりたいことは増える一方です」
安達先生訳『絵本のなかへ』は親しみやすい絵本の手引書
安達先生は4歳から9歳までロンドンで暮らし、現地の幼稚園と小学校に通った。とくに「エロキューション(朗読法)」の授業で、詩の音読の愉しさに目覚めたという。帰国後も英語の本をむさぼるように読んだ。
「英語の勉強になるとか読書が役立つなどという意識は一切なく、ひたすら物語を読む愉しみにとり憑かれました。あのときの昂揚感は、今なお英文学を研究する原動力になっています」
先生が翻訳した『クマのプーさん スクラップブック』は一次資料の宝庫
「子ども時代に知人のイギリス人から贈られて、今も大切にしている本があります。ミルン著『くまのプーさん』シリーズの原書です。
先生の著書『くまのプーさん 英国文学の想像力』
おとなになってからも、あの素朴を装った洒脱な語り口に魅せられるまま、プーさんに関する珍しい資料や図版を集めたスウェイト著『クマのプーさんスクラップブック』(筑摩書房)を翻訳し、他愛のないファンタジーとみえる作品に込められた創作上の工夫や洗練、物語の深層に横たわる父と子の葛藤を解き明かすために『くまのプーさん 英国文学の想像力』(光文社新書)を著しました」
先生が寄稿した文藝別冊「ナルニア国物語」
なによりも純粋に英語そのものが好きだった。幼少年期に海外で英語を身につけた帰国子女には、日常の英会話は堪能でも英文法は好まないという人も少なくないが、安達先生はそれに異を唱える。
「日本の中学校で初めて英文法を習ったとき、その緻密さ、複雑さ、柔軟さ、そして意外性に心を奪われました。厳密に定められた規則性にも認められる種々の例外、規則性があってこその破格の意味など……まるでパズルのように刺戟的でした」
先生が寄稿したシュツットガルト・バレエ日本公演プログラム。演目は『ロミオとジュリエット』と『じゃじゃ馬馴らし』
美術や演劇好きの両親に連れられ、幼い頃からよく美術館や劇場に足を運んだ。高校生のとき、英国ロイヤル・シェイクスピア・カンパニー(RSC)による、ピーター・ブルック演出『夏の夜の夢』を日生劇場で観た。演劇史に残る斬新な演出だった。
先生が寄稿した『シェイクスピア・ハンドブック』は研究の切り口へのヒントが満載
「なにもない真っ白い箱のような空間からぶら下がる空中ブランコに乗って、妖精たちが自在に飛び交う。天地がひっくり返ったような衝撃を覚えました。上演後、舞台から駆け下りてきた役者たちと握手をしてもらいましたが、その手の温かさは今でも忘れられません」
先生の訳書『英国王のスピーチ』は話題の映画の背景となったノンフィクション
英語、言葉や物語、美術や演劇を愛する少女だった安達先生は、大学に進学すると迷わず英文学を専攻した。また、在学中、当時の交換留学先だったマンハッタンヴィル大学に留学し、美術史と美術鑑賞の方法論を学ぶ。ニューヨークの美術館に足を運んで作品を堪能し、英語で美術評論を定期的に書いたのはよい文章修業になった。帰国後、卒業論文ではシェイクスピアの同時代作家の作品にみる不屈の女性像を取り上げた。
フランスのシェイクスピア研究誌。先生も寄稿している
「シェイクスピア研究は本当に奥が深いと思います。今、課題としているのは、シェイクスピアと16〜17世紀の文献における信仰をめぐる比喩表現です。
この時代は国家の定める宗教が劇的に変わっていく時代です。戯曲、年代記、公的・私的文書などのテクストを複合的に分析し、言語的・社会的・文化史的な側面から実証的な考察を進めています」
かつてはこうした研究を行うにはイギリスに長期滞在し、ロンドンの英国図書館に通わなければならなかった。しかし、近年はデータベースのオンライン化が進み、研究の方法や幅が格段に広がったと安達先生は語る。
先生の寄稿した英語論文集
寄稿Hot Questrists After the English Renaissance
「私が研究を始めた35年ほど前とは環境が激変しました。同時に、研究の方法論や担保されるべき水準も変わりました。オンラインデータベースを利用すれば、自宅にいながらにして多様なジャンルの文献を横断的に検索できます。
こうした機能を使えば、創意工夫と努力しだいで、英語圏以外の文化圏の研究者も英文学研究の進展に寄与できるのです」
さらに、安達先生は“違う文化圏”にいるからこそ、新しい視点からの研究ができるはずだと考える。むしろ“本場”の研究者にはない視点をもちうる強みさえある。その意味で、学生のみなさんにも、これまでだれも気づかなかった発見ができる可能性があるといえる、という。
先生の訳した『バイバイ・サマータイム』の著者は英国の新進作家
「英語圏の人びとはシェイクスピアをそのまま読みますが、日本人が本当に理解するには、自分の言葉に一旦置き換える作業を丁寧に行う必要があります。その過程において、英語圏の研究者が見逃してきた要点に気づくかもしれません。外国語の文献を読む“広義の翻訳”とはすぐれて創造的な置換であり、意味の発見の宝庫であり、“ネイティヴでないこと”はひとつのアドバンテージととらえることもできます」
先生監訳の研究書。日本の優れた研究を英語圏に紹介した
「文学研究と翻訳は、解釈するという点では同じだと思います。英語から日本語に、日本語から英語に、一語一語、自分の解釈をしながら形にしていくのが翻訳だと思っています。正確であるのは基本中の基本ですが、これが意外に難しい。翻訳にごまかしは許されません。もちろん翻訳者は人間ですから、それぞれの翻訳には個性があります。そうはいっても自分の創作物ではないわけで、禁欲的な作業なのですが、“枠”を尊重しつつ言葉を厳選し精錬することこそ翻訳の醍醐味なのです」
先生の共訳書『ルイス・キャロル伝』はキャロルの包括的な伝記
「翻訳の授業では学生に文学だけでなくノンフィクション、舞台字幕も含め、多様な翻訳に触れる機会を設けています。英語を日本語に、日本語を英語に正しく訳するだけでなく、幅広く複合的な知識が必要となりますから、いろいろなことに興味を持っていてほしいところです」
先生の訳書『アンデルセン』は詩人アンデルセンの全貌に迫る
安達先生の訳書の中には、ルイス・キャロル、シャガール、アンデルセンなどの伝記もあるが、これらはまさに多様な時代背景や文化的脈絡の深い知見なくしては完遂できない仕事といえるだろう。
先生が最近翻訳を手がけた本。画家シャガールの評伝
「シャガール伝(白水社)の著者は英国フィナンシャルタイムズ紙の記者で、綿密な調査に基づき、時代の大きなうねりの中に人物をあざやかに位置づけます。画家シャガールの足跡をたどる際、ドストエフスキーの小説を彷彿させる極端な豪奢と貧困が共存する19世紀末のサンクトペテルブルクの街の描写や、ナチスの脅威を逃れて占領下のフランスをマルセイユ港から出帆するくだりの描写は圧巻で、独特な雰囲気や緊迫感を伝えることに力を注ぎました」
先生が翻訳した『シェイクスピアを盗め!』シリーズはシェイクスピアの時代の少年俳優が主人公
安達先生の手がけた本には、シェイクスピア学者ならではのシェイクスピア翻案作品の訳書も数多い。
先生の訳書『オフィーリア』は、芯の強い魅力的なオフィーリアを主人公とする、『ハムレット』の前史
「ハムレットがなぜあれほどオフィーリアに冷淡なのかを解き明かす『ハムレット』前史というべきトラフォード著『オフィーリア』(白水社)、ひょんなことから「シェイクスピアさん」の速記者兼俳優となった少年が主人公のブラックウッド著3部作『シェイクスピアを盗め!』『シェイクスピアを代筆せよ!』『シェイクスピアの密使』(いずれも白水社)、シェイクスピアの劇団仲間が出版した稀覯本フォリオ判シェイクスピア全集の譲渡・売買・盗難・詐欺をシェイクスピア書誌学者が軽妙に語ったラスムッセン著『シェイクスピアを追え』(岩波書店)など、“事実”にフィクショナルなひねりを加えた作品は、翻訳者としても研究者としてもやりがいがありました」
シェイクスピア生誕450周年の2014年、フランスの国際学会で安達先生が行った発表も、まさに異文化にいるからこその視点を生かしている。
本についての本、先生の訳書『シェイクスピアを追え!』は、高価で貴重なフォリオ本をめぐる悲喜こもごもの物語
「シェイクスピア生誕400周年に当たる今から50年前の1964年、日本の学会や劇場ではシェイクスピアをめぐるいかなる取り組みがあったか、というテーマで発表しました。1964年は東京オリンピックの年であり、新幹線が開通した年です。高度成長期に入ってようやく復興の態勢が整い、戦時中に休止していた日本シェイクスピア協会も1961年に再スタートをきり、研究の機運も高まりました。そうした社会状況下でどのような視点で研究を行っていたかについて、当時を知る研究者へのインタビューや資料調査に拠ってまとめ、1963年に創設された日生劇場が60年代、70年代に果たした日本のシェイクスピア受容への貢献も再評価しました」
このときの発表が好評で、ドイツの論文集に収録されることが決まっている。
「この論文集には世界各地の学者が寄稿しています。今では“シェイクスピアは世界のもの”という意識が高く、英語圏以外の研究者による学界への貢献も多くなりました。これも学問のあらたな傾向なのかもしれません。背中を押されるような気持ちで、今後もシェイクスピアと日本の接点を見つめていきたいと思います」