聖心女子大学の奥行きを知る
研究者として横顔をご紹介するとともに、研究の意義や楽しさを語ってもらいました。聖心女子大学の魅力をより深く知るために役立てていただきたいと願っています。
研究テーマ | : | 英語教授法、メディア・コミュニケーション |
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著書 | : | 『英会話あと一歩(カッパ・ブックス)』光文社 『プライベートクエッション(カッパ・ホームズ)』光文社 『気楽にゴルフ英会話』日本放送出版協会 『ラジオ英会話(シリーズ)』日本放送出版協会 『テレビで留学! コロンビア大学英語講座(シリーズ)』日本放送出版協会 |
[Age of Propaganda: The Everyday Use and Abuse of Persuasion]
著者:A. Pratkanis & E. Aronson
英語の本ですけれど、それほど難しい本ではありませんので、メディア・リテラシーに興味があるならチャレンジしてみて頂きたいです。
ゼミ室に一歩入ると日本語は厳禁。教員への質問も、学生同士のディスカッションも、私語でさえ英語オンリー。全員が英語で卒業論文を書く英語英文学科にあって、その徹底ぶりと厳しい指導で知られる名物ゼミを率いるのは、「世にも厳しいクラッカワー」ことマーシャ・クラッカワー先生。聖心の英語英文学科出身で、大学卒業直後からNHK教育テレビ・ラジオの英語講座番組に出演。以後30年にわたり英語教師、レポーターとして放送、出版などさまざまなメディアの世界で活躍してきた、まさに“英語とメディアの達人”である。
「メディア論、マスコミ論といった講義も持っていますが、私自身は決してそういう分野の研究者ではありません。長年、メディアの側にいた人間として、自分の体験を生かしながら学生の皆さんにメディアとの付き合い方=『メディアリテラシー』を身につけてもらうのが私の役割だと思っています」。
お世辞にも「やさしい先生」とは言えない。歯に衣着せぬ鋭い指摘は相手が学生でも容赦なし。本人は「普通に指導しているつもり」でも、面談中に泣き出す学生もたまにいる。「だからそこにクリネックスがあるのです」と、テーブルの上には必ずティッシュが用意されている。「会話は全て英語ですし、頑張りたい人、挑戦したい人しか続かないゼミ。かなり大変だと思いますが、意外とついてきてくれます」。毎年、3・4年次でそれぞれ15名以上の学生が集まる人気の秘密は何なのか。それは恐らく、常に真剣で本気の言葉をかけてくれるからこそ育まれるクラッカワー先生への信頼感だ。
クラッカワー先生の部屋にあるティッシュ。
指導が熱心なあまり泣いてしまう学生もいるとか。
“大学育ち”の学者でも教育者でもなく、実は日本生まれの日本育ちでアメリカンスクール出身、つまり生粋のネイティブスピーカーというわけでもない。クラッカワー先生が持つスキルや人間力は全て自らの努力によって、ある意味“後天的に”培われたものと言ってもいい。だからこそ、その示唆は強い説得力となって学生たちの心に響くのだ。
そんなクラッカワー先生がメディアを学ぶ上で最も重要なスキルと位置づけているのが“critical thinking(クリティカルシンキング)”=批判的思考法だ。「批判精神と言ってもいいですが、ここまでさまざまなメディアが進歩し、誰もが世界中の情報をリアルタイムに入手できる世の中では、逆に“信ずるに足りない情報”も身のまわりにあふれています。とりわけインターネットの英語サイトなどは全く信用できないものも多いんですが、どうしても日本人はディフェンスが甘くなりがちです。まず、テレビや新聞が伝えるものに疑いを持ち、何が信頼できるのかを自分自身で判断すること。それが私たちの目指すメディアリテラシーです。実際の所、最近の学生はあまりメディアに疑いを持たず、テレビやネットの情報をそのまま信じてしまう。とても危険なことだと思いますね」。
ゼミではまず問題意識につながる一つのテーマを定め、それをさまざまなメディアがどう扱っているかを分析・検討しながら、メディア自体の本質に迫っていく。「2年生はジェンダーの問題から入っていますが、男女の性差に関することもあって学生の関心が高いですし、メディア自体をそういう視点で見たことがなかったという意見も少なくありません。私自身、偉い学者ではないので(笑)勉強しながら教え、学生たちと一緒にいろいろなものを発見しています」。この気さくでフラットなスタイルも、学生たちが慕うクラッカワー先生の持ち味なのだろう。
卒業生が書いたクラッカワー先生の似顔絵。先生のHPでも使用されている。
先生と学生の絆を物語るように、先生の研究室には学生の写真も飾られている。
ここ数年、情報を発信するメディアの側から、情報を受け取るオーディエンスの側へ、少しずつ自分自身の立ち位置も変化してきたというクラッカワー先生だが、学生に対する期待はやはり、自らの原点でもあるメディアの世界への進出だ。
「良いか悪いか、ものごとの判断が一つしかないような報道を見ていると、今はメディア自体が批判精神を失いかけているように感じます。そんなメディアを少しでも良くするためには、内側からメディアを変える人を育てなければいけないでしょう。最近はそういう方向を目指す学生も増えていますし、メディアの世界は男も女も関係ありません。最近は“女子大離れ”という言葉も耳にしますが、ヒラリー・クリントンがそうであるように、男性に頼らないクセが自然と身についている女子大出身者はいろいろな世界で歓迎されると思うんですよ」。
学生への口癖は「ストーリーテラーになりなさい」。時にエンターティナーとしてカメラの前に立ち、時にストーリーテラーとして教壇でメディアを語ってきたクラッカワー先生は“人に語り伝える言葉を持つこと”がどれほど大きな力になるかを誰より知っている。そしてもう一つ、自身の教育で心がけているのは「学生にビッグピクチャーを見せること」。素朴な疑問や身近な問題に目を向ける細やかな視点はもちろん大切だが、メディアという大きな世界をとらえるのは“大きなキャンバス”から全体を把握する“大きな視野”なのだ。
「アメリカでは20年前からほぼ全ての科目でメディアリテラシーへの取り組みが始まっています。日本はまだまだこれからですが、単に新聞の読み方とか、テレビの見方とか、そういうスキルではなく、大切なのは自分なりの考え方、カルチャーを通してメディアと付き合うこと。それもまたビッグピクチャーなのです」。