聖心女子大学の奥行きを知る
研究者として横顔をご紹介するとともに、研究の意義や楽しさを語ってもらいました。聖心女子大学の魅力をより深く知るために役立てていただきたいと願っています。
研究テーマ | : | 国際政治学、とくに安全保障・外交。欧州および東アジアの地域安全保障、信頼醸成等 |
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著書 | : | 『国際安全保障と地域メカニズム』(「地域」安全保障への理論的アプローチ―地域安全保障複合体(RSC)概念再考― 担当執筆)(共著)アジア経済研究所、『国際関係論のニューフロンティア』(第3章 国際関係論はなぜ国家に沈黙するのかー主権国家システムの永続性をめぐって 担当執筆)(共著)成文堂、『平和政策』(地域機構は役に立つのか 担当執筆)(共著)有斐閣 |
訳書 | : | チャールズ・カプチャン著『ポスト西洋世界はどこに向かうのか: 「多様な近代」への大転換』(監訳)勁草書房、ジョン・へーガン著『戦争犯罪を裁く〈上〉〈下〉――ハーグ国際戦犯法定への挑戦』(NHKブックス)(監修)NHK出版、チャールズ・カプチャン著『アメリカ時代の終わり〈上〉〈下〉』(NHKブックス)NHK出版、ジョン・L. ギャディス著『ロング・ピース―冷戦史の証言「核・緊張・平和」』(共訳)芦書房、アンワル・イブラヒム著『“マレーシア発”アジア的新生』論創社 |
NHK BS「国際報道2016」
http://www6.nhk.or.jp/kokusaihoudou/bs22/
NHK BS「ワールドニュース」
http://www4.nhk.or.jp/P3102/
世界の今が分かるこの番組は、授業でも薦めています。「国際報道2016」は世界の主なニュースをピックアップして発信、「ワールドニュース」は各国の報道番組を編集し、同時通訳を入れて放映しています。毎日見ているだけで、世界の今が大づかみできる内容となっています。
『ホテル・ルワンダ』
監督:テリー・ジョージ
販売元:ジェネオン エンタテインメント
『映像の世紀 ヒトラーの野望』
販売元:NHKエンタープライズ
『ホテル・ルワンダ』は1994年にルワンダで起こった実際の虐殺事件をもとに作られた映画。『映像の世紀』シリーズは、世界中のアーカイブから編集した“当時”の映像を中心に20世紀を語る優れたドキュメンタリーです。映像だからこそ伝わる濃密な情報から、歴史を体感することができるでしょう。
坪内淳先生の専門は国際政治学、その中でも「安全保障」を主なテーマとしている。今、我が国でもとみに注目度の高まっている分野である。
「研究対象はヨーロッパです。かつて歴史の中で激しく争いを重ねてきたヨーロッパが今、なぜ戦争をしない仕組みを作り上げているか。ヨーロッパの仕組みを研究することによって、日本とその周辺地域の国々が、その仕組みをどのように参考にできるかを考察しています。」
坪内先生が安全保障に興味を持った、その最初のきっかけは小学生の頃にさかのぼる。
「日本では戦後、戦争とは “絶対にやってはいけないもの”と教育されてきました。昔からみんながダメだと言っているはずなのに、歴史を振り返ると世界中でたくさん起こっているし、かつては日本も戦争をしていた。それに対して素朴に疑問を感じたのです。」
『ポスト西洋世界はどこへ向かうのか 「多様な近代」への大転換』チャールズ・カプチャン=著 坪内淳=監訳 小松志朗=訳(勁草書房)
著者はアメリカの国際政治学者。原題は『No One’s World』ーいよいよ誰のものでもない世界、誰がリードするのでもない世界が始まりつつあるという意味が示されています。この200〜300年、欧米の提示する社会モデルが世界を席巻してきましたが、今、世界は転換期を迎えつつあります。その理由と、これからの変化に対して、我々にどんな覚悟が必要かを説いた本です。
戦争への興味から世界史が好きになり、大学進学を考える頃には「国際政治」を学びたいという意思がはっきりしていた。
「高校時代に通っていた塾の世界史の授業で刺激を受けたことも大きかったですね。今でも覚えています。それまでは世界史というと年号や事柄を覚える勉強しかしていなかったのですが、その先生の授業では“なぜそうなったのか”が問われていました。」
坪内先生の印象に残っているエピソードをひとつ紹介しよう。イギリスがインドを植民地としていた時に鉄道をひいた話に関連して、「なぜ鉄道が必要なのか」という問いかけがあったという。軍隊を動かすため、あるいは近隣地域を統治するため、地域開発などの意味が考えられる――研究者となった今では当たり前のことだが、「歴史上の出来事にはすべてに意味や意図がある」と知り、当時は目からウロコが落ちる思いがしたという。
「一つひとつ考えて解いていくこと、論理的な思考に面白さを感じた瞬間でした。」
日本は戦後、世界一の強国であるアメリカに助けてもらうという約束をすることで、自分の身を守るという安全保障の選択をしてきた。しかし、昨今ではアメリカでも「なぜ日本を守らなくてはいけないのか」という考え方も少なからず出てきており、私たちは大きな転換期を迎えつつある。
授業の提出物(課題)。現代は、誰もがニュースをネットで見る時代です。ネットは確かに便利ではありますが、自分の関心のある記事しか見なくなるマイナス面もあります。そこで、私の「現代国政政治」や「政治学」の授業では紙の新聞に目を通し、興味のある記事をスクラップして、気になった理由や意見を書き入れて提出する課題を設けています。
新聞をめくる中でいろいろなトピックに触れてもらいたいと思っています。
「これまで一方的にアメリカが日本を庇護する関係だったのが、それが当たり前でない状況になりつつあるのは確かです。ある意味で“楽をしてきた世代”の人間がこう言うのは申し訳ないけれど、これから日本人はどういう生き方をしていくのか、真剣に考えなければいけない時代に入っています。若い世代の方々には命に関わる一人ひとりの問題として、より深く考えられるようになってほしいと強く思っています。」
坪内先生が研究しているヨーロッパの事例から学ぶとすると、どのような観点があるのだろうか。
「単純に、お互い同士“仲良く”すればよいということではありません。これまでもこれからも、どうしても“仲良く”できない国が必ず存在します。その前提から出発し、そうした国同士が、仲良くなれないとしてもいかに結び合うか。戦争をお互いしない確約をする――かみ砕いて言うと“どんなに腹が立っても絶対に殴らない”仕組みを作ることが非常に重要だと思っています。」
若い学生たちが「自分自身のこと」としての学びの面白さに目覚めるため、坪内先生は授業の中で刺激となるきっかけや、モチベーションを高める仕掛けをなるべくたくさん提供することを意識しているという。
「映像を見せたり、ゲストスピーカーをお招きしたりすることで、個々の学生一人ひとりが自分で何かを感じてもらいたいと思っています。ごく最近ではアメリカ大使館や外務省を訪れ、日米関係の最前線にいる担当者から意見を聞く機会を設けましたが、これも学生たちにとっては大きい体験だったようです。」
ゼミ合宿(写真)。ゼミ合宿では毎年沖縄を訪れています。米軍基地や領事館、防衛省施設等での意見交換や、現地の方の話を直接聞くなど、個人の旅行ではなかなか接することのできない沖縄の生の顔や問題点に触れます。
安全保障というテーマは、政治だけでなく経済、国の財政、環境問題など、多方面にわたる問題との関係抜きには語れない。幅広い知識が必要であるとともに、日々更新される国際情勢などに気を配ることも不可欠だ。今日的で、かつ責任を伴う、取り組み甲斐のある研究テーマといえるだろう。
「半世紀以上の長きにわたる平和の時期を経て、これから非常に難しい時期を迎える時代に研究活動をしている重みは自覚せざるを得ません。後々の時代に、私の研究が少しでも社会にとって貢献できたといえるような成果を残したいと思っています。」