聖心女子大学の奥行きを知る
研究者として横顔をご紹介するとともに、研究の意義や楽しさを語ってもらいました。聖心女子大学の魅力をより深く知るために役立てていただきたいと願っています。
研究テーマ | : | 文化と持続可能な開発(SDGs)。紛争・災害後のコミュニティー復興における文化遺産リコンストラクションの意義と是非。国際文化協力におけるベスト・プラクティス、技術移転・政策適用の在り方。有形文化遺産におけるスピリチュアリティ。リビング・ヘリテージ、カルチュラル・マッピング。 |
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著書 | : | 『日本外交の論点』(「世界遺産をめぐる日本外交」担当執筆)(共著)法律文化社、『回遊型巡礼の道 四国遍路を世界遺産に』(「文化の道、巡礼の道:スペイン・フランスの取り組み」担当執筆)(共著)ブックエンド、『世界遺産 富士山の魅力を生かす』(「自然遺産から文化的景観へ マオリの聖地、「信仰の対象」としてのトンガリロ山」担当執筆)(共著)ブックエンド |
NHK「ブラタモリ」
楽しいです。私の目指す、またみなさんに身に付けていただきたい姿勢でもある「土地それぞれの地霊genius loci を尊重する」「Cultural mapping の研究手法」とも関連性があります。
音楽会へ、コンサートへ
みなさんは、パソコンやスマートフォンで音楽を聴くことが多いと思いますが、時には、生の演奏に触れてください。生の演奏には、音を聴くだけではなく演奏者を見る楽しみもあり、湧き起こる感動もあり。身体に響く一体感もあり。じかに触れるからこそ感じとれることがあるのです。
旅
音楽に限らず、外に出かけていって自分で触れ、五感で感じ、人と交流し、さまざまな感動体験をすることが、柔軟にいろいろなものをつなげて考えられる感性を磨くのではないかと思っています。旅はいいです。一年に一度は、自分が行ったことのない場所へ行ってみて自分をそこの空気に晒し、外的世界だけでなく内面に向き合うことをしてみては。
インドのビハール州にて
岡橋純子先生は、聖心女子大学で教鞭を執る以前に、国際連合教育科学文化機関(ユネスコ)に10年ほど勤めていた経歴を持つ。国際協力に関心を持ったのはロンドンに暮らしていた中学生の頃にさかのぼる。
「現地の女子校で、授業中に湾岸戦争についてのディベートが行われた時のことです。13、14歳の同級生が真剣に討論する中、私は何も意見を持てずに圧倒されて聞くばかりでした。ただ、その時、心に浮かんだのは、停戦があってもそれは平和といえるのだろうか、平和とはそんなに簡単なものではなさそうだという考えです。」
その後、日本に帰国した岡橋先生は、高校生の時に「戦争はというものは人の心の中で生まれるものであるのだから、人の心の中に平和の砦を築かなければならない」と提唱する国連機関、ユネスコの存在を知る。「そんなところで働けたら」という思いが生まれ、大学時にはさらに具体的に「文化の多様性を尊重し合い、それを政策化する仕事に就きたい」と考えるようになっていた。
岡橋先生の研究の軸にあるのは「国際協力」だが、より詳しくいうと「文化という分野での国際協力」である。
「国際協力というと、途上国に学校を造る、道路を整備するといった開発援助の一側面を思い浮かべる方が多いかもしれません。それも正解ですが、私が実務および研究として行ってきたのは、各地の文化遺産を守るための仕組みを作ることです。」
例えば、フランスには街並みを保全するための優れた都市計画法があるが、その「法」を、他の国にそのまま持っていっても、うまく取り入れられるとはかぎらない。
「それぞれの国には、土地に根付いた慣習や考え方があり、いかに洗練された外国の『法』であっても、すぐ適用できるとは限らないためです。私が研究してきたのは、異なる土壌の人々が互いに学び合って法を作ったり改正したりできるような合意づくり、すなわち政策支援です。」
グローバルとローカルをつなぐこと、これをつねに目指して実践から理論を模索してきた。
もちろん机上の研究ではなく、国連職員時代はパリを拠点としながら、インド、アフガニスタン、マリ、セネガル、タンザニア等々さまざまな国に足を運んで現地の人々と協働した。
岡橋先生が現在着目しているのは、文化遺産学の世界で「カルチュラル・マッピング」と呼ばれる手法だ。土地にある文化的な価値、特徴的な要素について、内部者である現地の人々がなかなか気付くことができない場合があるため、それを第三者が共に発見する視点が有効となる。
「そこに参加する人によっても、視点は異なります。例えば建築家、人類学者、職人、女性グループ、商店主、学校の生徒など、人によって評価・注目するポイントは変わってきますから、いろんなタイプのコミュニティーで重層的にマッピングを行い、その土地の特徴を多角的に見いだしていくことが望ましいのです。」
研究室にある世界各地の手工芸品。匠の伝統技術や真価あるものの市場を絶やさないために、心惹かれたものを買い集めるようにしている。たびたび想起したいメッセージ性の高い写真や絵画も飾っている。
文化遺産の対象となる価値を発見する時、形のあるものだけでなく、無形の技術についての目配りも重要である。例えば茅葺き屋根なら、それを作りあげる技術のみならず、茅をどうやって管理するか。洗練された彫刻が施された建築があるならば、その意匠を可能にする職人の技術、さらには職人の知識の継承制度を続けることができるのかといった、社会構造にも考えをめぐらせることが必要だという。
「今後の研究についていえば、ユネスコ職員時代に何度も足を運び深く関わったネパールのカトマンズで、カルチュラル・マッピング手法での質的調査をおこなうことを計画しています。ここで現地の専門家や学生と共に、災害後再建・復興過程のコミュニティーに入り込んで調査をし、研究を通して現地の方々と共に発見する手段と場を形成したいと考えています。」