聖心女子大学の奥行きを知る
研究者として横顔をご紹介するとともに、研究の意義や楽しさを語ってもらいました。聖心女子大学の魅力をより深く知るために役立てていただきたいと願っています。
研究テーマ | : | 対話を通して子どもたち自身が知識を構成する学習環境と評価 |
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著書 | : | 『新しい教職教育講座教職教育編10 教育の方法と技術』(「資質・能力を育む教育と学習科学」担当執筆)(共著)ミネルヴァ書房、『教育工学選書II 学びのデザイン:学習科学』(「あるべき学びの再考とその基盤となる学習理論の枠組み」「獲得メタファに基づく学習理論」「教職大学院を中心としたスケールアップの拠点形成」担当執筆)(編著・共著)ミネルヴァ書房、『教育工学選書II 協調学習とCSCL』(「協調学習の技法」担当執筆)(共著)ミネルヴァ書房、『学校インターンシップの科学』(「学生の学校インターンシップ経験を活かした授業・演習:新たな学びの実現に応える教員養成大学・教職大学院の構築」担当執筆)(共著)ナカニシヤ出版、『アクティブラーニングの技法・授業デザイン』(「知識構成型ジグソー法」担当執筆)(共著)東信堂、『放送メディア研究12』(「学習科学からの視点―新たな学びと評価への挑戦―」担当執筆)(共著)日本放送協会放送文化研究所、『21世紀型スキル:学びと評価の新たなかたち』(「新たな学びと評価を現場から創り出す」担当執筆)(編訳・共著)北大路書房、『児童心理学の進歩2014年版』(インターネットを活用した協調学習の未来に向けて」担当執筆)(共著)金子書房、『教育工学選書 教育工学研究の方法』(「デザイン研究・デザイン実験の方法」担当執筆)(共著)ミネルヴァ書房 |
『人はいかに学ぶか―日常的認知の世界』
著者:稲垣佳世子、波多野誼余夫
出版社:中央公論社
本書の刊行は1989年ですが、これからの教育のあるべき姿を先取りする内容となっていることに、今読んでも驚きます。著者は認知科学・発達心理学の専門家です。人は日常生活の中でどのように学んでいるのかを見直すことで、これからの学校でどのように学ぶことができると有効かということを述べています。この本を読むことによって、みなさんの勉強のしかたが変わるかもしれません。
『21世紀型スキル:学びと評価の新たなかたち』
編集:P.グリフィン、B.マクゴー、E.ケア
監訳:三宅ほなみ
編訳:益川弘如、望月俊男
出版社:北大路書房
世界中の教育研究者が集まり議論されて検討された、これからの世の中に必要な能力についてまとめられた本です。コミュニケーション能力や創造性など、ここに挙げられた「21世紀型スキル」は一つの「教科」として教えることはできないものです。そうした力を身に付ける教育や学校の在り方、評価の在り方に関する提言、専門家による解説や日本の現状なども書かれています。これからの教育を考えていく上で大事な考え方が提案されていて、読み応えのある本だと思います。
先生が影響を受けたドナルド・A・ノーマンの本。『人を賢くする道具―ソフト・テクノロジーの心理学』新曜社、『誰のためのデザイン?―認知科学者のデザイン原論』新曜社、『エモーショナル・デザイン―微笑を誘うモノたちのために』新曜社
現在、学校を中心とした教育の場にはパソコンやタブレット端末などのICT(Information and Communication Technology)機器が広く普及しつつある。小学校でもタブレット端末を一人一台持って学習するようになる日は遠くないといわれている。益川弘如先生は、こうした新しい学習環境に呼応した、まったく新しい授業のスタイルを研究している。
「これまでの学校教育のベーシックである、先生から一方的に教わる授業というのは、深く学ぶことにつながらず、すぐに忘れたりしてしまいます。私が模索しているのは、子どもたちが対話をしながら、子ども自身が学びたいことを深め広げていくことで深い学びを実現する授業です。」
益川先生自身、10代のころに、「テストのために暗記する」という勉強のしかたに疑問を持っていたという。振り返ってみると、好きな教科や趣味の事に関しては自然に友だちと話しあったり、興味の赴くままに工夫したりしながら、追究することができた。そのようにして身に付いた知識は、忘れてしまうことはない。
「限られた授業の時間で、子どもたちが実のある話し合いをするのは難しいことです。ですが、ICT機器の普及はそれを可能にできると思うのです。タブレットが一人ひとりの手元にあれば、さまざまな情報メディアに触れることができます。でも、単にそれを見ただけでは深い学びにつながりません。その情報メディアに対して自分の意見や情報同士のつながりなどコメントを書き入れるなど、考えを反映させ、記録します。そして、その記録を友だちと共有して比べたり、意見を交わすことによって、深い学びが起きるのです。」
もちろん、ただ道具が刷新されただけで子どもの学びへの取り組み方が変わるわけではない。「さあ、考えてみて」と投げるだけではなく、教師が具体的に生徒に「何を考えてほしいのか」を伝え、考えてほしい「問い」を持たせることができるかどうかが肝要だという。
「ですから、授業の様子を記録して、子どもたちがどんな内容の話し合いをしていたか、狙い通りに『考えてほしいことを話し合っていたか』を検証して課題を洗い出し、次の授業作りにつなげるようにしています。また、自らの『授業のスタイル』を作るだけでは子どもたちには単に『そう振る舞えばいい』という型だけの活動になってしまって意味がないので、先生方を対象とした研修、ワークショップも行っています。」
時代が移り変われば、社会で必要とされる力も変わると、益川先生は熱をこめて語る。
「これから大事な学力は『何かを覚えていること』ではなく、『何か新しいことが創り出せること』です。何か新しいことを創り出すには、コミュニケーション能力や創造力、批判的読解力、科学的思考など、さまざまな力を発揮する必要があります。そのような能力を、学習内容を学びながら育む授業と、テストの在り方を研究することで、学校の授業の改革につなげていきたいと考えています。」
これまでの学校教育では知識の蓄積が重視され、テストもそれをチェックする形式だった。2020年から施行される新しい学習指導要領では「何ができるようになるか」、すなわち学びのプロセスを重ねて結論に達し、課題解決のために進んでいける力を育むことが狙いとされているそうだ。
「大学受験を控える高校生の皆さんの多くは、試験を突破することが第一の目的になっていると思います。ですが、日々、学びたい内容について疑問を大事にすること、仲間と対話することを心掛けてみてください。学んでいることが日々の日常、世の中で起きていることとどう結びつくのかや、学んでいることが将来どう役立つのかを日々考えてみると、もっと勉強が楽しくなっていくのではないでしょうか。」