聖心女子大学の奥行きを知る
研究者として横顔をご紹介するとともに、研究の意義や楽しさを語ってもらいました。聖心女子大学の魅力をより深く知るために役立てていただきたいと願っています。
研究テーマ | : | 国語科の授業づくり 文学教育 綴方教育 |
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著書・論文 | : | 【主著】 『文学の教材研究ー〈読み〉のおもしろさを掘り起こす』(共著)教育出版、『国語科授業を活かす 理論×実践』(共著)東洋館出版社、『子どもが生きる国語科学習用語ー授業実践と用語解説』(共著)東洋館出版社、『国語科発問づくりの基礎基本』明治図書、『実践へのヒント 国語授業用語の手引き 第二版』(共著)教育出版、『しりとり・ことば遊びの王様』岩崎書店、『読み合う教室へ 文学の「読み」の授業』百合出版 【その他】 『学力と学校を問い直す』(共著)かもがわ出版、『「書くこと」の言語活動25の方略』(共著)教育出版、『豊かな言語活動が拓く 国語単元学習の創造IV小学校中学年編』(共著)東洋館出版社、『これからの敬語指導 心ある言葉の使い手を育てる』(共著)明治図書、『子ども朗読教室五年生』(共著)国土社、『子どもと創る 国語科基礎・基本の授業 2年生』(共著)国土社、『文学の力×教材の力 小学校編2年生』(共著)教育出版 |
『ことばあそびうた』
著者:谷川俊太郎
出版社:福音館書店
学生時代にこの本に出会い、『日本語ってこんなに面白いんだ』と私の国語教育の原点となった本です。
『むずかしいことをやさしく
やさしいことをふかく
ふかいことをゆかいに
ゆかいなことをまじめに書くこと』
座右の銘は、井上ひさしさんが生前、色紙によく書かれた言葉だそうです。難しくて抽象的、専門的な用語ではなく、やさしい言葉で大事なことを伝え合っていく。それが小学校教育や幼稚園教育の原点だと考えています。大事なことを子どもにわかるやさしい言葉でどう伝えていくのか、考えてみてください。
木下先生が編集に参加した国語教科書。平成27 年度版 小学校用教科書『ひろがる言葉 小学国語』。
国語科教育学を専門とする木下ひさし先生は、小学校で26年間、中学校で4年間、教鞭をとってきた。その後、宮城教育大学を経て、聖心女子大学に着任した。この長年の実践経験をもとに、現在は、将来子どもたちの先生となることを希望する学生に対して、母語教育としての国語科教育の在り方を教えている。また、小学校の国語教科書の編集にも携わっていることから、小学校の教員に対しての講演や模擬授業などのために、全国の教育現場へ出向くことも多い。
「これから小学校、幼稚園の教師を目指す学生たちに、日本語の大事さ、特徴をまず知ってもらいたいと思っています。母語である日本語は、いかに世の中がグローバル化しても、自分の思考や想像の拠りどころとなるものです。言葉を正しく身に付けるということは、成長期の子どもたちの人格形成にも関わってくることだと考えます。」
先生の著書。『読み合う教室へー文学の「読み」の授業』百合出版。『文学の教材研究ー“読み”のおもしろさを掘り起こす』教育出版。文学の面白さを伝える本となっている。
先生の著書。『漢字のランドセル〈6ねん〉』らくだ出版、『しりとり・ことば遊び歌の王様(ことば遊びの王様)』岩崎書店、『教室のことば遊びーしなやかな発想を育てる』教育出版。
東日本大震災において被災した子どもたちの状況と、学校や教職員が果たした役割が書かれた本。被災地において、学校が地域の中心的な役割を担い、先生方が奮闘した記録を大事にしている。
長く小学校で教育に携わってきた先生は、子どもを取り巻く環境は変わっても、子どもたち自身は決して変わってはいないと言う。「遊びたい、学びたいという気持ちは、どの時代の子どもたちも同じです。子どもたちを教える面白さは、成長する人とかかわり合うことにあります。さまざまな個性がありますし、そのそれぞれの成長の場面に立ち合うことができる楽しさや、人間対人間として向き合えることが、小学校教師の魅力であり、かつ難しいところでしょう。」パソコンや通信機器が発達した現在だからこそ、言葉を読んで、あるいは聞いて、考える、想像するということを大切にしなければいけないと言う。そのための国語教育はどうあるべきかをテーマに、先生は研究に取り組んでいる。「小学校の国語の教科書づくりを担当していることから、あちこちの小学校にお邪魔して先生たちの研修のお手伝いをしています。現場の若い先生と私が見せる授業の大きな違いは『あそび』だと思っています。」教育の現場そのものが忙しくなっている現在。授業計画や目標に縛られて、授業が機械的形式的に進められていくことも多いと言う。「子どもたちに問いを投げかけても、すぐに、ハイハイ! と手を挙げさせて答えさせる。これでは、考える時間がありません。考える時間があってこそ、思考力が高められるのです。目の前にいる子どもたちに合わせた授業の進め方、またそのための教材作りなどを提案しています。」
先生のお気に入りの絵本。安里有生『へいわってすてきだね』ブロンズ新社、長谷川義史『ぼくがラーメンたべてるとき』教育画劇、蒔田晋治『教室はまちがうところだ』子どもの未来社。『へいわってすてきだね』は6 歳の少年の平和を願う朗読を絵本にしたもの。
「例えば国語の授業をする時にさまざまな文学作品を扱いますが、そうした作品を分析するのもひとつの研究だと思っています。子どもが30人いたら30通りの読み方ができる。教師が30人いたら、やはり30通りの読み方があっていいのです。教室で、みんなで読み合うことでその面白さに気付き、その作品の良さを見出していくことができるのです。」木下先生は、授業をしていくためには、まず先生方がしっかりと文章を読まなくてはいけないということで、教科書に載っている代表的な作品を現場の先生方に徹底的に読んでもらって、集まった作品論を『文学の教材研究』という本にまとめた。
教員時代に教え子からもらった心のこもったクリスマスカード。先生が大好きと書かれた文面を見て、涙が出そうになったという。
「これから教師を目指す学生たちには、教育ボランティアなどの機会を利用して、どんどん現場へ出ていくように伝えています。先生っていいなという疑似体験をしてもらいたいし、今までに自分自身が出会った優れた教育者たちのことを折にふれて思い出してほしいと思っています。先生になりたいと思った原点を思い出すことで、自然にこれからこういう勉強をしようとか、こういう本を読んでみようなど、やるべきことが見えてくるのではないでしょうか。」教職を志す人も、そうでない人も、視野を広げるために多くの本や新聞を読み、思考の柔軟性と思考する力を養ってほしい。木下先生はそう願っている。