聖心女子大学の奥行きを知る
研究者として横顔をご紹介するとともに、研究の意義や楽しさを語ってもらいました。聖心女子大学の魅力をより深く知るために役立てていただきたいと願っています。
研究テーマ | : | 平安時代の文学 |
---|---|---|
著書 | : | 『源氏物語 虚構の婚姻』武蔵野書院 |
「風俗博物館」
京都駅の近くにある「風俗博物館」では『源氏物語』の舞台をミニチュア化した展示を見ることができます。部屋のつくりを目の当たりにすると、登場人物たちの距離感が把握でき、より物語をイメージしやすくなります。機会があればぜひ訪れてみてください。
『仲間と読む 源氏物語ゼミナール』
著者:高田祐彦、土方洋一
出版社:青簡舎
大学のゼミや演習授業のライブを疑似体験できる本です。『源氏物語』の文章を味わうとはどういうことか、物語の考察はどのように行われているのかが、分かりやすく記されています。
第17回紫式部学術賞を受賞した先生の著書『源氏物語 虚構の婚姻』武蔵野書院
現在、聖心女子大学で学ぶ学生には『あさきゆめみし』や『うた恋い。』などのマンガから、古典に興味を持った方が少なくないそうだ。『源氏物語』の研究者として活躍する青島麻子先生も、ここに至る出発点は「お姫様が出てくる物語が読みたい」というシンプルな喜びだったという。
「華やかな王宮のお話が好きで、中学時代の調べ学習では貴族をテーマに選んだりしていました。高校生のときに『源氏物語』のストーリーに触れ、大学で深く学びたいと思うようになりました。」
高校時代や大学1・2年次には『源氏物語』に関する一般書などを読み、物語の裏ではどんなことが起こっていたのか、想像を膨らませて楽しんでいたという。
「ですが、3年次に『源氏物語』の演習に参加して初めて、自分勝手に想像することと、学問的に解釈することの違いを思い知ったのです。原文をじっくりと読み、時代背景、その言葉の使われている意図、文脈などから意味を深く解釈していく面白さを知り、研究の道に入っていくことになります。」
青島先生は、『源氏物語』を中心とした平安時代の文学作品を対象に、「婚姻」の観点から研究を行っている。このテーマは、大学4年次から探究しているものだ。
「このテーマを選んだのは、卒業論文執筆時に浮かんだ素朴な疑問からです。『源氏物語』を読んでいて、“女君(おんなぎみ)”が光源氏の正妻なのか、そうではないのか、そもそも何をもって正妻としているのか、分からなかった。ならば、自分で調べてみようと思ったのです。」
伝土佐派「源氏物語画帖・玉鬘」。授業の際にはこのような絵画資料も多用し、作品に対するイメージを深めることを目指している。
このテーマに関する先行研究は多くあったものの、決め手となるような解釈は世に出ていなかった。さまざまな論文を分析した結果、青島先生は、「従来の研究では、文学作品を歴史的資料にしてしまっている」という問題点に気付いたのだ。
「まずは、平安時代の婚姻制度が実際にどうであったか、“歴史学”の側面を明らかにし、それから、『源氏物語』というフィクションの中ではどう描かれているかを分析しました。両方に一致するところと、異なるところをはっきりさせた上で、『源氏物語』の独自性を考察し、作品の魅力、特徴を浮かび上がらせることを狙いとして研究をしています。」
論考をまとめた著作『源氏物語 虚構の婚姻』で、青島先生は「第17回紫式部学術賞」を受賞している。
「授業では、当初の興味関心、好奇心を持続させたままで、古典作品の原文そのものを味わう面白さを伝えられるように努めています。高校の古文の授業で古典文法や単語の暗記につまずき、古典文学そのものを敬遠してしまう学生がいるようですが、とてももったいないなと感じています。もちろん、文法や単語の知識は大切ですが、何はともあれ作品そのものの面白さを知ってほしいのです。大学では、苦手意識や先入観を持たず、積極的に作品に触れてもらえたらと思っています。」
大学とは、卒業後の仕事に直結しそうな“技術”ではなく、長い目で見て自分の糧となるようなものを身に付けるところではないかというのが、青島先生の考えである。古典文学を通じ、自国文化への深い知識を基礎とした広い視野を持ち、説得力に富む論理的な議論を展開する力を養うことは、大きな財産になるはずだ。
「また、聖心女子大学は1年次の教養課程や自由度の高いカリキュラムによって、幅広い学びが可能であることが、とても良いと感じています。入学時には専門分野を定めず、様々な学問に触れることで、自分の選択肢が広がることはもちろん、さまざまな専攻に進む友人ができることもメリットだと思います。自分とは違う方向性の興味を持つ友人と触れ合えば、自然に自分の幅を広げることにつながるのです。」